コラム

ウクライナ問題、「苦しいのは実はプーチン」ではないか?

2014年03月06日(木)13時54分

 ここに至って、IMFを中心としてウクライナ救済を行う、そこにEUとロシアが主要な資金提供を行う、アメリカももう少し資金の上乗せをするかもしれないが、同時にロシアは相応の債権放棄を行う、という漠然としたスキームは出来つつあるのではないかと思われます。

 現時点では、ロシア軍の展開というのは「救済スキーム」の条件交渉のカードの一つに過ぎなくなっている、そう見るべきだと思います。おそらくはそのスキームにおける「カネ」の分担に関して落とし所はあるでしょう。気になるのはロシア通貨ルーブルの下落と、ロシアの株の下落ですが、3日の週明けに暴落した後は少し戻していますから、スキームが進展すれば何とか危機は回避されるものと思われます。

 問題は、ウクライナの改革です。産業だとか雇用だとかを言う前に、過去から引きずってきた官民の腐敗を根絶しなくてはなりません。勿論、そこにはロシア側の腐敗摘発も含まれなくてはなりませんが、現政権が深く関与しているだけに、そして国策エネルギー会社のガスプロムも関わる中、100%の真相解明は難しいと思います。

 その辺りで、水面下の条件闘争があり、それが表面的にはウクライナの新政権の体制という形で現れてくることになるのではないかと思われます。そこで、撤兵をするかしないかという軍事カード、いやTV向けの戦車や兵士のパフォーマンスをプーチンは使って来るだろう、そうした観点で「危機の推移」を見ていきたいと思います。

 現在のウクライナ情勢は変数の多い多元連立方程式であり、同時に魑魅魍魎の跋扈する妖怪変化の世界でもあります。そんな中、「米欧とは一線を画した独自外交で日本の存在感を」とか、「安倍=プーチンの関係」を前提に上手く立ちまわって「北方領土と樺太の天然ガスが手に入れば」などという声があるようですが、論外だと思います。ここは堅気の出る幕ではありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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