コラム

絵画と写真の危機

2017年06月19日(月)12時00分
絵画と写真の危機

ヴォルフガング・ティルマンス   Wolfgang Tillmans: Your Body is Yours-Youtube

<絵画や写真が、単独で3次元以上のメディアに匹敵する芸術的効果を生み出すのは、現代では容易ではない。もしかすると、絵画や写真をあえて現代アートに含める必要はないのかもしれない。その理由は...>

前回「採点」したアート作品に、ある偏りがあったことに気づいた方はどれほどおられるだろうか。すべて1989年以降に制作・発表されている。人気アーティストの手に成るもので、色々な意味で話題となった。ダムタイプのメンバーに女性はいるが、それ以外はすべて男性作家がつくったもの......。いずれも正解だが、もっと根本的な偏りがある。立体が4作、パフォーマンスが1作。そう、絵画、写真、版画など、平面作品がひとつもない。

平面作品を採点することはもちろんできる。画家にも写真家にも、優れたアーティストはたくさんいる。彼ら彼女らの作品を採点するのはしかし、あまり面白くない。なぜか?

ひとつには、作品の地位が相対的に下がり、評価が難しくなっているからだ。何に対して「相対的」なのだろう。天文学的なスケールで増加し続ける、アート作品自体をも含むあらゆる画像に対してだろうか。確かに、画像は増える一方である。

市場リサーチ会社のキーポイントインテリジェンスによれば、2016年に携帯電話あるいはデジタルカメラで撮影された画像は1・1兆枚以上。2020年には1・4兆枚を超えると予測されるという(エド・リー「How Long Does it Take to Shoot 1 Trillion Photos?」。2016年5月31日付『Info Blog』)。コンサルタント会社のデロイトは、2016年にオンラインでシェアあるいは保存される画像は2・5兆枚ほどだと予測していた(ポール・リー+ダンカン・スチュワート「Photo sharing: trillions and rising」。デロイト『TMT Predictions 2016』)。いずれにせよ天文学的と呼んでいい数である。

1兆とは、1の下に0が12個並ぶ数字。1秒に1枚写真を撮ったとして、1・4兆枚撮るには4万5千年、2・5兆枚撮るには7万9千年近くかかる。天文学者がどう感じるかはわからないが、個人的にはまったくリアリティのない数値だ。7万9千年? プルトニウム239の半減期である「2万4千年」も現実感がないけれど、その3倍以上である。

これに加え、日々放映されるテレビの映像、新聞や雑誌やウェブに掲載される写真やイラスト、出版・上映・配信・販売されるマンガ、アニメ、映画、ゲームなどがある。20世紀後半から情報環境は大幅に変わったと言われるが、21世紀に入ってからもなお、視覚情報は指数関数的に増加している。巨大な画像の海が我々を取り囲み、その海は猛スピードで拡大を続けている。

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

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