コラム

現代アート採点法

2017年05月16日(火)11時20分
現代アート採点法

デミアン・ハーストの「Mother and Child (Divided) 」    Luke MacGregor-REUTERS

<現代アート作家の7種の創作動機の度合と、あなたの関心の程度や、表現の好き嫌いを数値化してみると理解は深まる。J・クーンズ、村上隆など5つの作品を選んで、具体的に「レーダーチャート化」してみよう...>

【前回の記事】現代アートの動機:エロス・タナトス・聖性

駆け足で7種の創作動機を説明した。急いで付け加えておくが、「美しさ」や「完成度」は動機に入らない。美しさや完成度を求めるアーティストは確かに存在するが、前者はマルセル・デュシャン的にアウトである。以前に引用した言葉を再度引こう。レディメイド、つまり既製品の選択に当たって、デュシャンは「何かしらの美的楽しみには決して左右されなかった」と述べている。「この選択は、視覚的無関心という反応に、それと同時に良い趣味にせよ悪い趣味にせよ趣味の完全な欠如(中略)に基づいていた」(「レディ・メイドについて」。ミシェル・サヌイエ編/北山研二訳『マルセル・デュシャン全著作』所収)。現代アートの創作手法が、デュシャンの言うように「常に選ぶこと」であり、したがって作品のすべてがレディメイドである以上、美はデュシャン的原理によって排斥されなければならない。
 
一方、後者(完成度)は高いほうが良いに決まっている。だからこそ、ここで考慮すべき動機にはなりえない。もちろん技術の巧拙はあって、出来上がった作品の完成度を比較し、優劣を付けることはできる。それはしかし鑑賞者が判断することであり、作家は誰もがベストを目指している。そうである以上、完成度は創作の前提であって動機ではない。

実際には、ストイックな言明にも関わらず、デュシャンに「趣味」があったのは確実である。「泉」なんか、一部の便器マニア(?)を除けば、誰にとっても悪趣味だろう。悪趣味だって趣味であるというのが強弁に聞こえるとしたら(本人は「良い趣味にせよ悪い趣味にせよ」と断っているが)、代表作「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(通称「大ガラス」)はどうだろう。作品の下部に見られる「独身者の機械」(チョコレート磨砕機と水車)について、画家で美術史家のジョン・ゴールディングは「打ち消しがたい優雅さをもっている」(東野芳明訳『デュシャン 彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』)と評している。これは完成度をも含む評価だと思う。

マルセル・デュシャン「大ガラス」

1931年、「大ガラス」が運搬中に割れてしまった。修復に当たったデュシャンは、大きく弧を描くように入ったひびの形が気に入り、後年、「見れば見るほど、ひびが好きになる」と語っている。「わたしはこれを『レディメイド』の意図と呼びたい。わたしはこの意図を尊重します」(ジェイムズ・ジョンソン・スウィーニーとの対話。カルヴィン・トムキンス『マルセル・デュシャン』所収。木下哲夫訳)。偶然が、あるいは「『レディメイド』の意図」がもたらしたものとはいえ、これは趣味と呼びうるものではないか。偶発的に生じたひびの形に美を見出したとも言える。事前に予想が付かない窯変による美を愛でる、東洋の陶工に通じる心持ちにも思える。

ともあれ、どうしてもと言うのであれば、美しさとは第1の動機「新しい視覚・感覚の追求」に含めるのがいいだろう。感覚的なインパクトに資する美しさは当然ありうる。作家はインパクトを生じさせるために美しさを追求する。そう考えるほうが理に適っている。泉下のデュシャンも、これくらいは許してくれそうな気がする。

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

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