コラム

食料品がこんなに高い!?インフレが止まらないNYの実態

2022年06月07日(火)17時26分

ブロッコリーが2つで9ドル!(筆者撮影) SENRI OE

<NYの家賃は今年1月までの1年間で33%もアップし、今年3月までの1年間でアメリカの消費者物価は8.5%、平均時給は5.6%上昇。それでも生きていけるニューヨーカーの不思議>

最近、スーパーで合計金額を聞くたび「あれ?」と思う。インフレからか食料品、レストランなどの値段が上がっているのを感じる。

うちには犬がいるので、朝晩のご飯の材料買い出しに2日置きにスーパーへ行く。鶏の胸肉は分厚いものが2枚で10ドル前後だったのが、17ドルくらいに値上がりした。カリフラワーが1個6ドル、レタス類は2個で7ドル、卵は1ダースで9ドルほど。

僕のようにざっくり買い物する人でも、「あれ? 高いぞ」と支払い時に首をひねる。元が高いのだ。なのに最近はもっと高い。店としても値段を高くしすぎると客離れが起こるので、悩ましいところだと思う。

輸入食品は、輸送費高騰のせいか手に入らないものまで出てきている。僕が月一くらいの割合で日本の食料を買うグロッサリーストアのオーナーが言う。

「千里さん、緊急事態。納豆、油揚げが姿を消しました。きなこも。いつ再入荷するか見当もつかない。棚が埋まらないから商品の間隔を空けて並べて、あるように見せてるんです」

さらに、人件費もうなぎ上り。コロナ禍で失った労働力がいまだに市場に戻らず、人材の奪い合いになるため賃金は急上昇。飲食店や酒屋など3~4人で回していた店は、今はオーナー1人で切り盛りしているのをよく見掛ける。

コロナ以降、巨額の救済金で人々の所得を補う政策を実施してきた政府は、今やさっさとインフラ整備へ舵を切り替えている。追い打ちをかけるように始まったウクライナとロシアの戦争が原油高を引き起こし、全米にインフレの影を落としている。

ニューヨークの家賃は今年1月までの1年間で33%も上がり、ガソリンの高騰は火を見るよりも明らか。今年3月までの1年間で、アメリカの消費者物価は8.5%、平均時給は5.6%上がったという。

ヒーヒー言っていてもチップは置く

でも不思議なことに、消費者が文句を言うのを聞いたことがない。どうやって生計を立てているのだろう。

きっとみんな僕と同じで、内心はヒーヒー言っているはず。でもレストランで普通にランチも食べるし、チップも置くし、まずければ文句も言う。生演奏が始まればダンスも踊る。街にはあらゆる音楽が爆音であふれている。

確かに夜遊びなどのアウトゴーイングは減ったのかもしれないが、ニューヨーカーの旅行熱は復活している。国の迅速かつ十分なサポートで生き延びたニューヨークの人々は、生活に余裕がないにもかかわらず毎日をそれなりにエンジョイしている。

投資家はマンハッタンらしさを維持すべく街に果敢にお金をつぎ込み、「価値」を下げない。顔なじみのホームレスに「これ好きだったよね」と新しいスタバのラテをプレゼントし、バス運賃を払えなさそうな人を見掛けたら、みんなでドアを開けて乗せてあげる。

僕も含めてだが、全くもってニューヨーカーはタフでクールで集うのが大好物だ。天気がいいと外に椅子を持ちゾロゾロ出てきて輪になってワイワイガヤガヤ。そこには自分たちの国の音楽がいつもある。

それを見ていると「ケ・セラ・セラ」。人生は今を楽しめばなんとかなるかも、と思えてくるから不思議だ。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story