コラム

中国空母が太平洋に──トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化

2016年12月27日(火)15時30分

 しかし、中国にとって、台湾問題は、取引材料に使用できるような問題ではない。台湾問題は、中国共産党統治の正統性に関わる問題でもある。また、台湾の独立が認められれば、新疆やチベットに独立の機運が高まる可能性が高い。それは、中国社会不安定化の連鎖を起こす原因ともなる。中国が内側から崩壊するかもしれないという意味だ。

 中国指導部にとって、まさに悪夢である。それでも、中国は慎重にトランプ氏の真意を探っていたように見える。12月2日、トランプ氏は台湾の蔡英文総統と電話協議を行ったが、この時も、中国はトランプ氏を名指しで批判することを避けた。米国の大統領或いは次期大統領が台湾の総統と協議したのは1979年の断交以来初めてだと報じられるような衝撃の大きな事案であったにもかかわらず、である。因みに、中国は、蔡英文総統は名指しで批判している。

 慎重に見極める態度を継続する一方で、危機感を持った中国は、トランプ氏に対して強いけん制の姿勢を見せる必要性を感じたと考えられる。中国が、軍事力を用いてトランプ氏をけん制したのが、今回の空母戦闘群による西太平洋での訓練だけではないからだ。

無人潜水機を奪う暴挙

 トランプ氏と蔡英文総統の電話会談が行われた後の12月8日、中国の爆撃機が、中国が南シナ海に設定した「九段線」に沿って飛行した。2015年3月以来のことである。南シナ海全域に対して空爆する能力を中国が有していることを示し、米国及び南シナ海で行動する米海軍に対して中国の軍事力を誇示しようとしたのだ。

 そして、12月15日には、中国海軍救難艦が、フィリピンの西方約90キロメートルの海域で、米海軍海洋調査船が運用していた無人潜水機を奪うという暴挙に出た。米海軍と中国海軍の、南シナ海における水面下の攻防は、2000年代後半から活発化している。中国海軍の戦略原潜が海南島に配備されて以降、米海軍は、南シナ海における対潜戦を強化しているのだ。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

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