最新記事
シリーズ日本再発見

「日本はWi-Fi後進国、外国人が困っている」に異議あり!

2017年03月17日(金)14時21分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

kasto80-iStock.

<日本はフリーWi-Fi後進国だとよく言われるが、これは正しいのか、本当に訪日観光客は困っているのか。今となっては、Wi-Fi整備を進める方針をむしろ見直すべきかもしれない>

【シリーズ】外国人から見たニッポンの不思議

日本は「Wi-Fi後進国」であり、外国人観光客の最大の悩みの種になっているという。グーグルで検索すると、約5580件の関連する記事やブログがヒットするうえ、筆者の周りにも「これで東京五輪?」と日本の後進性を嘆く人が多い。今回、編集部から「なぜ日本はフリーWi-Fi後進国なのか?」というお題を頂いたことも、そうした問題意識が広く共有されていることの表れかもしれない。

もっとも、本当に外国人観光客はフリーWi-Fiの少なさに困っているのだろうか。

私は定期的に中国人を中心に外国人観光客の取材を行っているが、数年前までは確かにフリーWi-Fiがなくて不便だという感想が多かった。お土産の相談をするために店頭商品の写真を外国の親戚や友人に送りたい、レストランで撮った料理写真をSNSにアップしたいというニーズが多かったためだ。

しかし、モバイルインターネットは日進月歩で進化している。数年前と今ではかなり状況が変わっているようだ。日本をたびたび訪問するという中国人女性のSさん(天津市出身、30歳)に話を聞いた。

「日本はフリーWi-Fi少ないんですか? あんまり気にしたことはないですね。私は日本の旅行者用SIMを自分の携帯に入れて使ってるから。ツアー旅行の人はガイドさんがモバイルWi-Fiを持っていて、参加者はそのWi-Fiを使っているの。中国人は気ままに行動する人が多いから昔は迷子になる人が多かったんだけど、最近はネットがつながらなくなると困るからと、ガイドさんにくっついて行動するようになってはぐれる人が減ったんですって(笑)。ビジネスで日本に来る人は携帯電話のローミングを使っている人も多いみたい。フリーWi-Fiって探すのもつなぐのも面倒くさいから、動画を見たい時ぐらいしか使わないですね。日本人が海外に行ってもそうじゃないですか?」

「後進国だ!」と嘆く日本側の熱量とは裏腹の、そっけない答えが返ってきた。確かに日本人の海外旅行を考えても、大容量のデータのやりとりがある場合ならばともかく、通常の利用はモバイルWi-Fiやローミングがあれば十分というケースが多いのではないか。

私の個人的経験としても、海外出張中にフリーWi-Fiを探すのは仕事の資料などデータサイズが大きいファイルを受信する必要がある時ぐらいだ。しかもフリーWi-Fiを見つけたのはいいがスピードが遅すぎて、仕方なく携帯電話でダウンロードすることもしばしばだ。

日本での批判を見ると、フリーWi-Fi接続に必要な認証が複雑すぎるとの指摘もあるようだが、不特定多数にサービスを提供する場合にはプロバイダ責任制限法に基づく義務を負うため、認証なしでサービスを行うことは難しい。日本以外の先進国でもこうした問題に無頓着な個人経営店ならばともかく、大手飲食チェーンなどではなんらかの認証を行うケースが一般的だ。

世界の通信事情に詳しいライター、林毅氏は「中国では携帯電話番号かSNS経由での認証が要求されるケースがほとんどで、外国人旅行客は使えない場所ばかりですね。米国も似たようなものですよ」と話す。

【参考記事】日本に観光に来た外国人がどこで何をしているか、ビッグデータが明かします

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、テスラへの補助金削減を示唆 マスク氏と

ビジネス

米建設支出、5月は‐0.3% 一戸建て住宅低調で減

ビジネス

ECB追加利下げに時間的猶予、7月据え置き「妥当」

ワールド

米上院、トランプ減税・歳出法案を可決 下院で再採決
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中