コラム

パレスチナ、セックス・スキャンダルの裏に...

2010年03月08日(月)11時00分

 決して豪華とはいえないホテルの一室。そこにL字に配置された2人がけのソファがあり、恰幅のいい男性が座っている。すると2人の女性が部屋に入ってきて、1人は男の隣に、もう1人は別のソファに座った。彼らの間で何らかのやり取りが交わされ、女性は甲高い笑い声をあげる。

 そして隠しカメラの映像は、ベッドルームに切り替わる。先ほどの男性がニヤケ顔で服を脱ぎながら女性に対して何やら言葉を発する。

 パレスチナで問題になっているこの盗撮ビデオ。実はこの恰幅のいい男、マフムード・アッバス議長の側近、ラフィーク・フセイニ首席補佐官だ。彼はイギリスで教育を受けたエリートで、パレスチナの元情報機関の幹部でもあった。

 セックススキャンダルがイスラム世界で御法度なのは言うまでもない。ヨルダン川西岸地域を支配するパレスチナ自治政府の穏健派ファタハには、特に衝撃が走っている。パレスチナ全体の恥だ、と声を上げている者もいる。さらに、自治政府には酷い汚職が蔓延しているとして批判を受けてきたが、最近ではかなり改善され、国際社会からも評価されていた。そんな矢先の騒動だ。

 さらに問題を大きくしたのは、この相手女性が就職を求めていて、就活中であった点だ。報道では、彼は自らの影響力をちらつかせてこの女性に関係を迫ったとされる。

 この疑惑にはイスラエル諜報機関モサドの影がちらつく。

 この映像は、2月10日にイスラエルのチャンネル10で初めて放映された。映像を提供したのは、パレスチナの元諜報部員ファハミー・シャバネー。シャバネーはさらに、アッバスに近い関係者らの公金着服疑惑も指摘していて、その「証拠」を大量に持っていると言う。パレスチナ自治政府はシャバネーが「イスラエルの強力を得ている」として指名手配した。彼は、05年にアッバスから自治政府の汚職につして調査するよう支持されたシャバネーは、調査結果をアッバスに伝え無視されたと主張し、それが今回の動機になっているとみられる。

 フセイニは、この映像は1年半前の出来事だということを認め、3週間の停職処分になった。彼はこの疑惑が「陰謀」だとし、イスラエルとパレスチナのによって仕掛けられたと主張している。アッバスはこの疑惑に関する調査委員会の設置を発表、数週間ほどでその結果は公表される予定になっている。

 映像の続きに戻ろう。フセイニは女性に、「私が電気を消そうか? 君が消すのか? 私はどういう風にすればいいのかい?」と言葉をかけながら、服を脱ぎ続ける。そしてパンツ一枚になりベッドに入り、ピローの位置を直しながら、女性に来るようにと誘う。

 次の瞬間、シャバネーを含む数名の男が部屋になだれ込んだ。フセイニはベッドから飛び出し、慌てて服を着た。先ほどのニヤケ面といい、この慌てぶりといい、あまりにも間抜けだ。

 最近、ドバイでモサドに関係するとみられる殺人犯グループがハマス幹部を殺害した事件が起きたばかりだ。さらにイスラエルのハーレツ紙は、ハマスの著名な指導者ハッサン・ユーセフの息子を紙面に登場させ、「10年間、イスラエルのスパイをしていた」と語らせた。

 そして今回のセックススキャンダル(美人局的な違和感を覚えてしまうのは私だけではないだろう)は、イスラエルによるスパイ工作の「成功例」として、またハマスの「大恥」として、停滞する中東和平交渉の裏で小競り合いの種になっている。

 モサドによるとみられる一連の工作活動は、「小説より希なり」。

――編集部・山田敏弘


このブログの他の記事も読む

プロフィール

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ

ビジネス

中国10月物価統計、PPIは下落幅縮小 CPIプラ

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story