コラム

結局、TACOだったトランプ米大統領...関税交渉で最悪の事態回避も、日本経済の厳しい夏は続く

2025年08月02日(土)11時05分
トランプ大統領

結局、トランプ大統領がTACOだと想定して上昇していた米株式市場が正しかった(8月1日、ホワイトハウスの記者会見にて) Jessica Koscielniak-REUTERS

<15%でディールに至ったが、手放しで褒められるものではない。日本では個人消費にブレーキがかかり低成長が続く一方、輸出企業の環境は厳しい。経済浮揚の焦点は、自民党の次期総裁が誰になるかだ>

トランプ米大統領は、日本に続いてEUとの関税交渉においても関税率を15%に引き下げて妥結した。日本の基幹産業である自動車の関税率も15%に引き下げた今回の決定は、筆者を含めた多くの市場参加者にとってサプライズである。

トランプ氏はいわゆるTACO、「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも怖気づく)」との揶揄には不愉快だったようだが、4月初旬に掲げた高い関税率は概ね引き下げられ、結局はTACOであったということだ。

ディールを有利に運ぶための材料として高関税政策の脅しを使っていた、ということになる。日本や欧州が承諾した米国に対する大規模な投資へのコミットが、米国が獲得した成果の一つである。

とはいえ、米国への投資判断は民間企業によって行われるので、政府には、政府系金融機関による融資拡大など側面支援しかできない。この出資や融資が返済されなければ日本の損失(=米国への資金支援)になるリスクがある。

ただ、詳細は不明だが政府系金融機関の出資比率が抑制されていることを踏まえれば、大きな問題にならない融資規模にとどまり、自動車に25%の関税を課されるダメージのコストのほうが明らかに大きいと判断される。

また、自国への自傷政策でもある高関税政策を断行するリスクをベッセント財務長官らが理解しており、トランプ大統領は必ずしも教条的な高関税主義者ではなかったようだ。株式市場の上昇は続いている一方で、トランプ大統領の支持率が停滞し続けているため、「ディールによる成果」を獲得したい政治事情も妥協を急いだ大きな理由だろう。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:ラグジュアリー業界、シェア獲得に向け支出

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story