コラム

岸田内閣の支持率が低くても、日本株が好調な理由

2023年09月20日(水)16時02分

4月に就任した植田新総裁率いる日本銀行は、黒田体制の政策姿勢をこれまでのところ引き継いでいる。そして米国経済の堅調な成長が長引いていることが相まって、円安ドル高という「強烈な追い風」が続いていることが、日本株の大幅高をもたらす最大の要因と言える。株式市場と一般世論の、岸田政権に対する評価が異なるのは、円安の経済効果に対する認識ギャップが影響しているということである。

日本経済の今後の展望

仮に、1ドル150円前後の現行の円安が2,3年続けば、ようやく始まった「インフレと賃金の好循環」が根付き、名目GDPが増え続ける。これが筆者が想定するベストシナリオで、そうなれば、日本経済の完全復活は実現するのではないか。

ただ、インフレ率格差から試算される為替均衡値(購買力平価)と比べると、現行の1ドル150円付近のドル円は、1970年代前半以来の大幅な円安水準にあると試算される。更なる円安を予想する向きもあるが、そうした予想の根拠は確かではない。また、米国など海外中銀の利上げが最終局面に近づきつつある。これまでの円安ドル高の主たる要因であった日米の金融政策の方向が変わる中で、大幅な円安は続きづらい。こられを踏まえると、過去1年半続いた大幅な円安という追い風は、かなり弱くなりつつあると筆者は考えている。

この見方が正しく、円安の追い風が、逆風と言える円高に転じれば、どうなるか。株式市場の岸田政権に対する評価は、一般世論と同様に厳しくなるだろう。これまで好調だった日本株のパフォーマンスも悪化して、株式市場と一般世論の岸田政権に対する認識ギャップは縮小すると予想される。最近の日本株の大幅上昇は「追い風参考値」であることを、岸田政権は認識しているだろうか?

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英10月PMI、サービス・製造とも改善 新規受注回

ビジネス

中国BYD、来年中に販売店47都道府県制覇へ 年内

ビジネス

9月ショッピングセンター売上高は前年比1.4%増=

ワールド

中国主席、APEC会議出席のため30日─11月1日
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 9
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 10
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story