コラム

日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

2017年02月21日(火)11時34分

Rick Wilking-REUTERS

<カルフールなど多くの外資系小売会社が撤退や苦戦を強いられるなか、コストコが日本の消費者の支持を集め、躍進を続ける要因を、その事業構造や収益構造から分析する>

世界の総合小売企業売上ランキング第2位で世界9カ国に事業展開するコストコに対して、同6位で世界34カ国に事業展開するカルフール。(※)

日本には1999年に第1号店を出し現在は25店舗を展開するコストコに対して、ほぼ同時期の2000年に第1号店を出し2005年には日本から撤退したカルフール。

進出国数では圧倒的にコストコを上回る国際的小売会社であるカルフールがわずか5年の間に日本を撤退したのはどのような理由だったのであろうか。

カルフールのみならずテスコなど外資系小売会社の大半が日本進出後に撤退や苦戦を強いられてきたなかで、日本の消費者の支持を集め、さらに躍進を続けるコストコの成功にはどのような要因が考えられるのであろうか。

本稿では、事業構造や収益構造、ポジショニング等、ストラテジーやマーケティングの観点からコストコとカルフールを比較し、日本市場における外資系企業成否のポイントを考察していきたい。この内容は、日本を攻略しようと考えている外資系企業のみならず、日本企業の戦略にも示唆を与えるものになるはずだ。

【参考記事】家具のニトリがユニクロを凌駕するアパレルの雄に?

メーカーとの直接取引を実現できなかったカルフール

小売会社は国内外双方の市場において、標準化やチェーン化原理に基づいて、規模の経済を確保することをゲームのルールとしている。

このようななかで、小売会社の競争力を分析する上で最も重要なポイントの1つは、「商品の品揃構造×商品の調達構造」分析であり、「どのような数量と内容の商品をどのような方法で調達しているのかを同時に見ていくこと」で、事業構造と収益構造を見極めることができるのだ。

前者は商品力そのものであり、消費者に対する店舗の魅力度を左右する要因だ。その一方で、後者は収益構造に直結するサプライチェーンという企業全体の事業構造そのものであると言えるだろう。

衣食住全てを取り扱う郊外立地の大規模総合スーパーであり、欧州においてハイパーマーケットと呼ばれる業態に分類されるカルフールは、商品のアイテム数が7万点にも及ぶ広範囲な商品構成を誇っている一方で、その調達構造は現地国調達を基本としていることが特徴だ。

同社のアニュアルレポートによると、特に食品の現地国調達比率は総じて高く、アジア諸国においては、インドネシア:99%、マレーシア:100%と高水準となっている。

すなわち、カルフールの進出国における最大の成功要因は極めてシンプルかつ明快であり、「進出国における消費者に対してハイパーマーケットとして低価格で商品を提供できる競争力を確保するために、いかに短期のうちに現地メーカーとの直接取引体制を構築し、規模の経済を高めていけるか」という点に集約されるのである。

このようななかで、カルフールは日本進出に際してメーカーとの直接取引を画策したものの、大手メーカーから相次いで拒否され、間接取引を余儀なくされたことが、収益構造に直結する商品の調達構造に大きな打撃を与えた。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

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