コラム

【ブレグジット】イギリスとEUが離脱案で合意 最大の難関は英議会

2019年10月18日(金)17時01分

離脱協定案でEUと合意に達し、嬉しそうなジョンソン英首相(左)とユンケル欧州委員長(10月17日、ベルギー・ブリュッセルのEU本部) Francois Lenoir-REUTERS

<EUとの合意はできたが、「ハードブレグジット(合意なきEU離脱)」のリスクがなくなったわけではない>

英国による欧州連合(EU)からの離脱を目前に控えた10月17日、英国とEUは修正離脱協定案の合意にこぎつけたと発表した。

離脱協定は離脱後の条件を定めるもので、これが英国の議会で承認された場合、英国とEUは2年間にわたる移行期間に進む。この期間に自由貿易の締結に向けた交渉が行われる。

離脱が決定された3年前の国民投票から今まで、離脱交渉の第1段階の歩みは遅く、メイ前英首相はEUと合意した離脱協定案を英下院で3回も否決され、退陣する羽目になった。

今回の合意で、予定日の10月31日に「必ず離脱する」と宣言して新首相となったボリス・ジョンソン氏がその約束を守れる可能性は出てきた。

しかし、最大の難関はこの離脱協定案を英議会が承認できるかどうか。

与党保守党は下院で過半数を割っている。英領北アイルランドの地域政党「民主統一党(DUP)」(10議席)の協力を得ることで法案を通過させようとしてきた。

9月には、離脱日の延長法案に賛同した保守党議員21人を「追放」してしまったため、さらに議席数を減らしてしまった。

最大野党・労働党やこれに続く議席を持つスコットランド民族党、そして自由民主党の党首や代表者らはすでに「この離脱協定案を拒絶する」と表明している。

労働党議員の中には離脱支持者が多い選挙区を代表する議員がおり、賛成票を入れる可能性もあるが、どれぐらいの数になるかは不明だ。BBCの予測では、数人から20人で、承認への道は険しい。

17日と18日、ブリュッセルではEU首脳会議が開催中だが、初日早朝、DUPが「現在の形では離脱協定案に同意できない」と発表したばかりだ。その後、欧州委員会のユンケル委員長が「合意ができた」とツイートし、バルニエ離脱首席交渉官が合意についての記者会見を開いた。

国内で十分な支持が得られない間に、英政府はEUとの合意をほぼ達成してしまったことになる(正式には、首脳会議及び欧州議会での承認後、「合意」となる)。

新離脱協定案の争点とは

英政府とEU側とが実質的に合意した離脱協定案は、メイ前首相とEUが合意した離脱協定案をベースにしたもので、BBCのクリス・モリス記者によると、「90%はメイ氏がまとめた離脱協定案だ」。

修正離脱協定案は3つの文書で構成されている。

(1)離脱協定の修正
(2)政治宣言の修正
(3)北アイルランドの同意について 

「同意」というのは、(1)や(2)の中に入っている、アイルランド共和国と北アイルランドとの物流などの動きについての規制を維持するかどうかについて、北アイルランド議会の同意を得ることになっているからだ。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story