コラム

「嫌韓」保守政治と「反日」旧統一教会の併存を生んだ日本政治の弛緩

2022年09月07日(水)18時50分
国会

銃撃され死亡した安倍元首相に議場で哀悼の意を表す国会議員(8月5日)。宗教と政治の関係性が問われている ISSEI KATOーREUTERS

<山上容疑者が撃ち抜いた「政治と宗教のなれ合い」。惨劇はなぜ起こったか。日本の政教分離はどうあるべきか>

安倍晋三元首相が7月8日、凶弾に倒れた。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に対する恨みを晴らす犯行と報じられたことから、「カルト宗教と政治家」の関係に社会の関心が集中。国葬実施の是非で国論が二分されるなか、8月10日に岸田文雄首相は人心一新の内閣改造に踏み切ったが、国民の厳しい視線は変わらず、内閣支持率が急降下している。

山上徹也容疑者が事件直前に投函した手紙や、2019年10月に開設したツイッターの投稿を見ると、彼の母親が1億円超の巨額献金を行って破産し、家庭が崩壊したことに対する積年の憎しみと復讐心が吐露されている。

昼の世界が突然闇の世界に暗転し主人公が魔物に襲われる映画『サイレントヒル』に自分を重ね合わせたのか、山上のツイッターアカウント名は「silent hill 333」だ。犯行時の冷静さと空疎ないら立ちを浮かべた彼の表情は、既に虚無の異界に足を踏み入れ、そこから現実世界を見ているような印象を与える。

他方で山上は「苦々しくは思っていましたが、安倍は本来の敵ではないのです。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの1人にすぎません」とつづっている。

なぜ教団への憎しみが暗殺という凶行に結び付いたのか。この思考回路の短絡は論理の飛躍なのか、それともカルトと政治権力が交錯する磁場に内包された論理的必然なのか──。旧統一教会と政治家の関わり合いに注目が集まる背景には、こうした疑問が沈殿する。

「正義とサタン」の構図を暗転

統一教会(世界基督教統一神霊協会)は1954年、韓国・ソウルで文鮮明(ムン・ソンミョン)によって創設された。教祖を再臨主(メシア)とする特異な教義は伝統的キリスト教宗派から異端視される。日本では1964年に宗教法人として認証を受けたが、原理研究会(CARP)を通じた大学生の洗脳と社会的隔離、合同結婚式、霊感商法、偽装伝道などが社会的指弾を浴びてきた。

反社会的セクト性に加えて、統一教会を特異な存在にしたのが政治性である。マルクス主義をサタン思想と見なして反共活動を推進し、日本では安倍元首相の祖父・岸信介元首相の助けで国際勝共連合を設立。蜜月関係は岸の女婿である安倍晋太郎衆院議員を通じて、清和会を中心とする自民党保守派に引き継がれた。

アメリカでも主に共和党へ浸透していくが、それは統一教会の反共イデオロギーが米ソ冷戦下で「錦の御旗」になったからだった。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ロは「張り子の虎」に反発 欧州が挑発な

ワールド

プーチン氏「原発周辺への攻撃」を非難、ウクライナ原

ワールド

西側との対立、冷戦でなく「激しい」戦い ロシア外務

ワールド

スウェーデン首相、ウクライナ大統領と戦闘機供与巡り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story