コラム

プーチンが平然と「モンゴル訪問」を強行し、国際刑事裁判所(ICC)をあざ笑った「真意」

2024年09月10日(火)17時43分
モンゴルでフレルスフ大統領と会談したプーチン大統領

モンゴルを訪問してフレルスフ大統領と会談したプーチン大統領(9月3日) Sputnik/Kristina Kormilitsyna/Kremlin via REUTERS

<国際刑事裁判所( ICC)から逮捕状を出されたロシアのプーチン大統領だが、逮捕を恐れることなくICC加盟国のモンゴルを訪問>

[ロンドン発]昨年3月、ウクライナの占領地域からロシアへ子どもたちを強制移送したとして国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を出したウラジーミル・プーチン露大統領が9月2~3日、ICC加盟国のモンゴルを訪問した。プーチンが逮捕の恐れのあるICC加盟国を訪れたのは初めてだ。

ICCは1998年に採択されたローマ規程に基づき設立され、現在、締約国は124カ国。米国、ロシア、中国、イスラエルは非加盟だ。ロシアはクリミア併合を占領と判断されたことに反発、2016年にローマ規程への署名を取り下げ、ICCを公然と批判するようになった。

一方、モンゴルは03年にICCに加盟。23年には同国出身のエルデネバルスレン・ダムディン裁判官がICCの裁判官18人に選ばれた。このため、ICCは8月30日の声明で「モンゴルは加盟国として逮捕状についてもICCに協力しなければならない」とプーチン逮捕を迫った。

プーチンのモンゴル訪問には ICCの権威を貶める思惑が

プーチンのICC加盟国モンゴル訪問には、ウクライナによる露西部クルスク侵攻は取るに足りないと世界中にアピールする狙いと、ICCの権威を踏みにじる思惑がある。

表向きロシアのウクライナ侵略を批判しても、米国主導のウクライナ軍事支援に参加する国は西側の50カ国超に過ぎない。

モンゴルにはジスプロシウム、テルビウム、ネオジム、プラセオジムを含む重要な鉱物資源やレアアースが6450万トンも埋蔵されている。

オンラインメディアのポリティコに対し、モンゴル政府報道官は「モンゴルは石油製品の95%、電力の20%以上を近隣諸国から輸入している。この供給はモンゴルの存続と国民の生活を保障するために不可欠」としてモンゴルの外交方針は常に中立だと強調してみせた。

ICC加盟国はICCの令状に従う義務がある。23年には、プーチンは逮捕を恐れてICC加盟国の南アフリカで開催された主要新興国によるBRICSサミットを欠席した。

ロシア産エネルギー依存は解消されていない

南アと違って、中国とロシアに挟まれるモンゴルには地政学上、絶妙のバランス感覚が求められる。

今年は1939年のノモンハン事件でソ連軍とモンゴル軍が旧日本軍に勝利してから85周年。しかもロシア産エネルギーはモンゴルの生命線だ。プーチンは10月にロシアで開催されるBRICSサミットのホスト国としてモンゴルのオフナー・フレルスフ大統領を招待した。

国際社会は冷徹な計算に基づいて動いている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG「ビジョン・ファンド」、2割レイオフ

ビジネス

三井住友FG、米ジェフリーズへ追加出資で最終調整=

ワールド

EU、ロシア産LNGの輸入禁止前倒し案を協議

ワールド

米最高裁、トランプ関税巡る訴訟で11月5日に口頭弁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story