コラム

ゼレンスキーの「大博打」は成功するか クルスク侵攻作戦の行方

2024年08月24日(土)18時48分

米国議会の混乱で支援が停滞したため、ウクライナ軍は深刻な弾薬不足に陥り、その隙にロシア軍は攻勢に転じた。

戦争の軌道を変えることができるのは結局のところウクライナだけであることをゼレンスキー氏は痛感していた。「ウクライナが冒すリスクについて、西側諸国のほとんどは良い感覚を持っているとは思えない。しかし戦争とは結局のところ意志の戦いなのだ」

プーチンはまたも弱点をさらけ出した

ウクライナ東部ドンバスでプーチンは攻め、ゼレンスキー氏は守る。露西部クルスク州では逆にゼレンスキー氏は攻め、プーチンは守る。プーチンの侵攻で全面戦争に突入したウクライナ戦争は2つの大規模な地上作戦に同時並行で対処するという新局面に入った。

祖国を守る「ストロングマン」の装いをまとってきたプーチンはまたも不意をつかれ、状況に機敏に対応できない弱点をさらけ出した。

英国の戦略研究の第一人者、キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は自身のブログ(21日)に「ウクライナのこれまでの消耗戦略が功を奏しているとの見方もある」と指摘している。

ウクライナ軍の陣地に無理な肉弾戦を仕掛けるロシア軍が多くの兵員と火力を使い果たし、今回のウクライナの電撃作戦に対応する蓄えを失っていたというものだ。

「大きな『もし』だが、ウクライナ軍の攻勢が数週間、数カ月にわたって継続され、ロシア軍がウクライナ軍をクルスク州から追い出すために一層の努力を払わざるを得なくなれば、ロシアの戦略的計算と戦争を巡るナラティブに変化が見られるかもしれない」(フリードマン名誉教授)

米欧からの支援頼みのウクライナが兵員、武器弾薬の量で不利に立たされている状況は変わらない。果たしてゼレンスキー氏のギャンブルは奏功するのだろうか。

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story