コラム

朝日を浴びにバルコニーへ出たザワヒリは「忍者爆弾」の6つの刃に切り裂かれた

2022年08月04日(木)18時31分

今年に入ってザワヒリの妻と娘がカブールの隠れ家に移る

米側は今年に入ってザワヒリ容疑者の妻や娘がカブールの隠れ家に移ったことを知った。英情報機関も4月、妻や娘がヘルマンドからカブールに移ったことを確認したとされる。隠れ家はタリバンの強硬派ハッカーニ・ネットワーク(HQN)が用意したとされる。米英情報機関は5~6月にザワヒリ容疑者がカブールに到着したことを突き止めた。

4月初旬、米国家安全保障担当副大統領補佐官らが現場から報告を受け、5~6月にジェイク・サリバン米国家安全保障問題担当大統領補佐官を通じてバイデン氏に報告された。ザワヒリ容疑者の妻は長年培ってきた潜伏術を駆使して、誰もザワヒリ容疑者に辿り着けないよう細心の注意を払っていた。

ザワヒリ容疑者の「生活パターン」を確認するため複数の独立した情報源に頼った。 ザワヒリ容疑者が隠れ家に滞在し、バルコニーに出るのを数回にわたって確認した。ザワヒリ容疑者の家族を含む民間人への巻き添え被害リスクを最小限に抑えるため、隠れ家の構造を徹底的に調べた。

ミサイル攻撃で隠れ家が破壊されてしまうと巻き添え被害が出る。情報機関が作った隠れ家の模型をホワイトハウスのシチュエーションルームに持ち込んでじっくりと検討した。その結果を受け、バイデン氏は7月1日、スタッフからザワヒリ容疑者への精密打撃計画を説明された。同月25日、殺害するのに最適な状況だとの助言を受け、最終承認を与えていた。

ザワヒリ容疑者の妻も娘も負傷せず、民間人の犠牲も出なかった。上階の窓が吹き飛んだように見えた以外は建物の他の部分には驚くほど小さな被害しかなかった。バイデン氏は攻撃の約36時間後、ザワヒリ容疑者の殺害を発表した。

米政府高官は「ザワヒリ容疑者がカブールの下町にいたことは米軍撤退の見返りに国際テロ組織の活動拠点としてアフガンを利用させないと確約したドーハ協定に明らかに違反している」とタリバン政権を批判した。ナンシー・ペロシ米下院議長(民主党)の台湾訪問も、ザワヒリ容疑者の殺害も11月の中間選挙を意識して行われたとみて間違いないだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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