コラム

朝日を浴びにバルコニーへ出たザワヒリは「忍者爆弾」の6つの刃に切り裂かれた

2022年08月04日(木)18時31分

一方、バイデン氏は演説の中で「正義は実現され、このテロリストのリーダーはもう存在しない。どんなに時間がかかろうとも、どこに隠れようとも米国民の脅威となるなら必ず見つけ出して排除する。何年も執拗にザワヒリを探し続けた結果、情報機関は今年初めついに居場所を突き止めた。家族と再会するためカブールの下町に移動していた」と明かした。

ザワヒリ容疑者は、米軍が11年に殺害した首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者に次ぐアルカイダのナンバー2だった。224人が死亡、4500人以上が負傷した1998年のケニアとタンザニアの米大使館爆破事件で重要な役割を果たし、米乗組員17人が死亡、数十人が負傷した00年の米ミサイル駆逐艦コールへの自爆攻撃の首謀者だとバイデン氏は糾弾した。

「アフガンをテロリストの安住の地にはしない」

米中枢同時テロを受けた米軍主導の攻撃でタリバンが駆逐された後、ザワヒリ容疑者はほとんどの時間を南部ヘルマンド州ムサカラの人里離れた山中で過ごした。新興の過激派組織「イスラム国(IS)」の創設者は当初、テロの老舗アルカイダと手を組もうとしたが、ザワヒリ容疑者の慎重な指導方針に反発し、逆に主導権を争うようになった。

バイデン氏は昨年8月、アフガンから米軍を撤退させ、タリバンのカブール奪還を許した。通訳など大量の対米協力者がアフガンに取り残され、警備に当たっていた米兵13人がテロ攻撃で殺害されるなど大混乱に陥った。これをアメリカの弱さと見たウラジーミル・プーチン露大統領はウクライナ侵攻を決断したとの批判も噴出した。

今年11月に中間選挙を控えるバイデン氏は「アフガンをテロリストの安住の地にはしない」と情報機関や特殊部隊、ドローンを使ったテロ対策の成果を強調した。2月には数カ月に及ぶ計画を経てシリアでIS指導者を襲撃(指導者は自爆死)し、7月にも別のIS指導者をドローン攻撃で殺害した。そして今回、アルカイダの頭目ザワヒリ容疑者の殺害に成功した。

米政府高官は「何年も潜伏していたザワヒリ容疑者の居場所を突き止めることができたのはテロ対策の専門家による慎重で忍耐強く、粘り強い作業の結果だった。テロ対策コミュニティーのさまざまな部門が緊密に協力して、この複雑な作戦を計画し、実行した」と振り返った。米側は数年前からザワヒリ容疑者を支援するネットワークに気づいていたという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NTT、4ー9月期の営業収益が過去最高更新 島田社

ビジネス

午後3時のドルは153円後半、9カ月ぶり高値更新後

ワールド

中国、人民元国際化へ香港の役割強化へ 本土市場との

ワールド

中国、来年APEC巡る台湾の懸念否定 「一つの中国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story