コラム

「103万円の壁」撤廃という公約は結局、国民のためになるのか? 評価できる点と、荒削りな点とは

2024年11月28日(木)10時54分
年収の壁の撤廃提案の本質的議論

CLAUDENAKAGAWA/ISTOCK

<総選挙で大躍進した国民民主党の公約で注目を集めた「年収の壁」問題。政局は混乱しているものの、長年の懸案を解決できるチャンスと捉えることもできる>

年収が103万円を超えると所得税が課されるため働き控えが発生するという、いわゆる「年収の壁」をめぐって協議が続いている。今回の総選挙で大躍進した国民民主党は、103万円の壁撤廃を公約として掲げることで多くの支持を集めた。

だが年収の壁は106万円、130万円など複数あることに加え、103万円の壁を撤廃する方法も、国民民主が提案したもの以外にたくさん存在する。

複雑極まりない税制と社会保障制度の抜本的な見直しは、多くの政権が避けてきたテーマと言えるが、今回、自民党が少数与党に転落したことでオープンな議論が可能となった。政局は混乱しているものの、多くの懸案を一気に解決できるチャンスと言えるかもしれない。


現在の税制では年収が103万円を超えると所得税が発生する。だが年収が103万円を超えて104万円になった場合でも、実際に支払う税金は、所得税について言えばわずか500円であり大きな負担とは言えない。

むしろ103万円を超えると親の扶養から外れ、親の税金が増える可能性があることから、親が学生の子供に対してこれ以上働かないでほしいと要請することがあり、これが働き控えを誘発していると考えられる。

だがこれはあくまで学生に限った話であり、主婦については150万円までは配偶者特別控除があるため夫の税金は増えない。つまり、ごく一部の勤労学生の話であり、103万円の壁は単なるイメージにすぎないとの見方も多い。

一方、社会保障制度においては年収が130万円を超えると自身で社会保険料を支払う必要が出てくるため、目先の手取りが減少するという問題が発生する。最終的には年金が大幅に増えるのでトータルで損はしないものの、手取り減少の影響は大きく、パート労働者の大規模な働き控えの原因となっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国外貨準備、11月末時点で3.266兆ドル 予想

ワールド

トランプ氏、シリアのアサド政権は「ロシアの支援喪失

ワールド

アングル:戦禍で置き去りにされたレバノン障害者、支

ワールド

シリア政権崩壊、ロシアの影響力に危機 駐留基地存続
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能の島」の内部を映した映像が話題 「衝撃だった」
  • 4
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 5
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 6
    電力危機の救世主は「廃水池」だった...「浮くソーラ…
  • 7
    2027年に「蛍光灯禁止」...パナソニックのLED照明は…
  • 8
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 9
    白い泡が大量発生...インド「下水汚染された川」に次…
  • 10
    シャーロット王女の「史上最強の睨み」がSNSで話題に
  • 1
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 2
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 3
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 4
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 5
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 8
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 9
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 10
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 9
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 10
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story