コラム

都市景観をお金に換えられない残念な国「ニッポン」

2018年11月27日(火)14時35分

だがヒルトンは新しく建て替えるということはせず、19億5000万ドル(当時のレートで約2300億円)というとてつもない価格で、しかも長期の業務運営委託契約付きで中国企業に売却するという選択を行った。中国企業はホテルの美観を維持する義務があり、コストをかけて大規模修繕まで実施するという。高い収益を上げつつ、文化財的な価値も維持するという、売り手にとって圧倒的に有利なスキームといってよいだろう。

この事例は、経済的に豊かになった新興国というのは法外な値段であっても、文化的価値が高いモノを欲しがるということを如実に表わしている(その後、買収した企業が破綻し、現在は中国政府の管理下にある。もし安く買い戻せれば、米国にとってはさらに利益となる)。

ヒルトン・グループがこうした決断を下せたのは、同社の経営が、ホテルを自ら所有するという旧来の形態から完全に脱却し、時代に合った経営体制を構築できているからである。

廃墟だった発電所をそのままリニューアル

ロンドンではテムズ川のほとりに廃墟として放置されていた発電所をリニューアルし、大規模なオフィスやレジデンスとして再利用するプロジェクトが進められている。

発電所として稼働していた当時の状況が随所に残されており、ボイラー室だった場所には米アップルが英国本社を構える予定となっている。建物の保全との折り合いで開発は難航したが、マレーシアの投資家の資金を得たことで、プロジェクトは実現の運びとなった。

先進国は、工夫次第でこうした「オイシイ」ビジネスをすることが可能であり、文化財の保存と経済的利益の両方を追求できる。これこそが先進国が持つ最大の特権といってよいだろう。容積率を一方的に緩和し、景観を壊しながら新しいビルを建設するよりも、はるかに利益の大きいスキームを構築することは日本でも不可能ではないし、それを考え出す知恵こそが本来は求められている。

もっとも筆者は、日本でもこうした知恵が生かされ、美しい都市景観が保持されるとはあまり思っていない。

日本経済の弱体化は想像以上に進んでおり、ソフトパワーについて議論する余力はすでになくなっているというのが現実だろう(というよりも最初からなかったのかもしれない)。筆者のオフィスの近くでは、目立った特徴のない巨大ビルの建設が今日も進められている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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