コラム

鳴り物入りで発足した韓国の「公捜処」が開店休業中の理由

2023年02月28日(火)18時19分

その意味で文在寅(ムン・ジェイン)前政権下における大統領の文在寅と検事総長の尹錫悦(ユン・ソギョル、現大統領)の対立は、韓国においては異例な事態だった。

背景には朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾において辣腕を振るった尹に対する文の誤った期待があったといわれている。そして、その結果新たに創設されたのが高位公職者犯罪捜査処(通称・公捜処)である。

この独立機関は行政機関でありながら、大統領の指揮下にないものとされ、その「独立」した地位から、政治家や官僚をはじめとする高い地位にある人物の捜査を行うことが期待された。

そして今、韓国では野党党首であり、先の大統領選挙候補者であった李在明(イ・ジェミョン)の疑惑が取り沙汰され、また一部では大統領夫人の捜査を求める動きもみられている。しかし、そこに「公捜処」の姿が見られるかといえばそうではない。動いているのは検察であり、警察などの手足を持たない「公捜処」は実質的な動きができないでいる。

依然として、韓国の政治家にとっては自らの政治的影響力が及びやすい検察が公捜処よりはるかに使いやすい組織なのである。中立的な組織は中立的であるからこそ政治家には使いにくい。この国の「司法の政治化」はますます進むことになりそうだ。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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