コラム

コロナ禍の英国医療を救った「100歳の英雄」キャプテン・トム、「スキャンダル禍」に飲み込まれる

2024年07月17日(水)17時35分
コロナ禍のイギリスを救ったキャプテン・トム

女王からナイトの称号を授与されたときのムーア(2020年7月) MAX MUMBYーPOOL/GETTY IMAGES

<コロナ禍に医療従事者への支援を訴え「英雄的行動」で多額の寄付を集めた「キャプテン・トム」だが、家族の金銭スキャンダルが次々に発覚>

「まだまだ日本人が知らない 世界のニュース50」コロナ禍のさなかの2020年、彼はイギリスの英雄となった。99歳の退役軍人だった彼は100歳の誕生日までに、歩行器の力を借りて自宅の庭を100往復するという挑戦を開始。これと引き換えに国民保健サービス(NHS)の医療従事者への寄付を募り、国民に元気と希望を与えた。

集まった金額は約3900万ポンド(当時のレートで約50億円)。彼は女王からナイトの称号を与えられ、100歳の誕生日には空軍が儀礼飛行を行い、自伝はベストセラーになった。ところが今、彼──トム・ムーア退役大尉──の名から人々が連想する言葉は「スキャンダル」だ。


21年2月に死去した大尉の善意は誰も疑わないが、自伝の多額の売り上げはNHSに渡ったわけではなく、遺族が懐に入れていた。しかも大尉の名声が広まると、娘が彼の名前をすかさず商標登録し、さまざまな「キャプテン・トム」グッズを売り出したのは抜け目がないにも程がある。

新設されたキャプテン・トム財団をめぐっても、代表者である娘に多額の給与が支払われるなど、数々の不正が明らかになった。

とどめは、大尉が往復した自宅庭でのスパ建設。「キャプテン・トム」をたたえる慈善施設のように装っていたが、実は建築規制を擦り抜けるための嘘だったことが分かり、今年に入って当局の命令で取り壊された。これぞ「スキャンダル」。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アマゾンとマイクロソフト、エヌビディアの対中輸出制

ワールド

米、台湾への戦闘機部品売却計画を承認 3.3億ドル

ワールド

ファイザー、肥満症薬開発メッツェラの買収を完了

ワールド

韓国、通貨安定化策を検討 ウォン7カ月ぶり安値
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story