コラム

「対話と交渉」のみで北朝鮮のミサイル発射は止められるのか

2016年02月12日(金)15時42分
「対話と交渉」のみで北朝鮮のミサイル発射は止められるのか

昨年夏に安保法制批判のデモを行った学生団体SEALDsは「対話と協調に基づく平和的な外交・安全保障政策」を訴えているが、現実にはそれがいかに困難かを北朝鮮の核・ミサイル問題――特に中国が自制を求めたにもかかわらず止められなかったこと――が示している(SEALDsがデモで使用していたプラカード) Thomas Peter-REUTERS

 新年早々の1月7日に、アメリカのシンクタンクのジャーマン・マーシャル・ファンド(GMF)上席研究員のダニエル・トワイニングは、「アンハッピー・ニュー・イヤー」と題する興味深いコラムを寄せていた(注1)。トワイニングはアジアの安全保障問題に精通した優れた専門家で、日本の安全保障政策についても冷静で公平な視点から鋭い洞察を示すコラムを、これまで書いている。

 トワイニングはこのコラムの中で、2016年に想定される10の地政学的リスクを列挙して、新しい1年もまた多くの不確実性に満ちていることへの警鐘を鳴らした。そのうちの第9のリスクとして、「北朝鮮とより多くの問題」が生じる懸念を指摘している。彼の不安が的中する事態が、ちょうどその1カ月ほど後に明らかとなった。

 2月7日、北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイルの打ち上げを強行した。国際社会が、地域の緊張を高めるようなそのような軍事行動を抑制するよう強く要請して、北朝鮮と緊密な関係にある中国政府高官も事前に打ち上げに反対するために訪朝して警告をしたにもかかわらず、国際社会と全面的に対決する決意で北朝鮮政府は発射実験を実行したのである。実際に北朝鮮は、これまでの5つの国連決議を無視するかたちで、自らの軍事能力強化を優先する決断をした。それは周辺国に、さらなる脅威を与える結果となった。

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 それまで韓国政府は、中国政府の懸念を考慮して、アメリカの地上配備型迎撃システムの高高度防衛ミサイル(THAAD)の朝鮮半島配備については、消極的な立場を維持してきた。ところが、今回の発射実験を受けてその直後に米韓両国は共同声明を発表し、THAAD配備へ向けたアメリカとの公式協議の開始を発表した。また、中国政府もこのような北朝鮮の行動に、「深刻な懸念」を表明し、従来よりも強い態度で北朝鮮の一方的な行動への批判を行った。

 他方で、北朝鮮政府はこれを地球観測衛星「光明星4号」の発射実験と正当化し、「軌道進入に成功」したと報じている。これによって、北朝鮮はアメリカ国土をより確実に直接攻撃する能力を身につけた。アメリカとの交渉上有利になったと考えられるであろう。

 日本国内では、この「ミサイル発射」直後に首相官邸で国家安全保障会議を開き、政府としての対応を協議した。そして、早い段階で安倍晋三首相からの「総理指示」が出され、「情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対して、迅速・的確な情報提供を行うこと」と、「航空機、船舶等の安全確認を徹底すること」、そして「不測の事態に備え、万全の態勢をとること」を指示した。冷静で的確な対応であろう。

 さらには、総理会見で安倍首相は、「北朝鮮に対し、繰り返し自制を求めてきたにもかかわらず、『ミサイル発射』を強行したことは、断じて容認できません」と述べて、「核実験に引き続き、今回のミサイル発射は、明白な国連決議違反であります」と論じている。そして、「国民の安全と安心を確保することに万全を期していく考えであります」とも伝えている。

 北朝鮮の「ミサイル発射」が南西方面へと飛翔することが予測されていたことからも、不測の事態に備えて、沖縄県石垣島に地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)が配備された。また、北朝鮮のミサイルの性能について不明な部分が多いことから、発射が失敗して仮に日本国内に落ちる可能性も考慮して、東シナ海で警戒しているイージス艦がミサイルで迎撃する準備を行っていた。さらに、米海軍のミサイル追跡艦「ハワード・O・ローレンツェン」が、ミサイルのルートを追跡するために、2月5日に佐世保基地を出航していた。

プロフィール

細谷雄一

慶應義塾大学法学部教授。
1971年生まれ。博士(法学)。専門は国際政治学、イギリス外交史、現代日本外交。世界平和研究所上席研究員、東京財団上席研究員を兼任。安倍晋三政権において、「安全保障と防衛力に関する懇談会」委員、および「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員。国家安全保障局顧問。主著に、『戦後国際秩序とイギリス外交』(創文社、サントリー学芸賞)、『外交による平和』(有斐閣、櫻田会政治研究奨励賞)、『倫理的な戦争』(慶應義塾大学出版会、読売・吉野作造賞)、『国際秩序』(中公新書)、『歴史認識とは何か』(新潮選書)など。

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