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焦点:AIの労働市場・物価への影響、米FRB内部で見解に隔たり

2026年03月03日(火)14時49分

写真は米ワシントンの連邦準備制度理事会ビルの入り口。2025年11月に撮影。REUTERS/Elizabeth Frantz

Howard Schneider

[ワシ‌ントン 2日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)当局者は、人工知能(AI)が経済に劇的な‌変化をもたらすという見方を概ね受け入れているものの、実際にどれくらいのスピードで、どれほど大きな影響が現​れるのかについては現在、分析するのに苦戦している。とりわけ、AIが労働市場や物価にどれほど影響を与えるのかを巡って見解に隔たりが生じつつある。

米決済大手ブロックが先月26日、AIによって労働力活用のあり方が変わったとして⁠従業員の40%に相当する約4000人を削減すると発表したことは、AIが労働市場に与え​る影響の大きさを浮き彫りにした。

通常であれば、解雇が増えると中央銀行は金融緩和へ傾く。しかしAIへの移行期において、当局の反応は従来とは異なってきている。当局者は、失業率上昇はこれからの時代に当たり前に起こり得ることとして受け止めるべきだと指摘する。AIによって職を失った労働者は新しい仕事を見つけるまでに要する期間が長期化するためだ。一方、失職していない労働者にとっては資本収益率や賃金が上昇し、それがインフレに上向きの圧力をかけ続ける。

ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のアダム・ポーゼン所長はインフレに関する議論の中で、「今の局面は景気にとってプラス⁠に働く実質的なショックが起きている段階だ。しかしその大半は実質所得の押し上げという形で表れており、物価を押し下げる効果はほとんどない」と指摘。株高で家計資産が増える一方、AIブームに伴う巨額の設備投資が一部地域で電力コストや建設費を押し上げ、今後は物価圧力がむしろ強まっていくとの見方を示⁠した。また、​短期的にはAIがインフレを抑えるとの見方については、「完全に間違っている」と明確に否定した。

<ウォーシュ氏の立場>

この「AIがインフレを抑える」と考えるグループに、次期FRB議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏が含まれる。ウォーシュ氏は、AI主導の生産性向上がインフレを抑制するため、政策金利を引き下げるべきだと考えている。昨年11月の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿では、AIは「生産性を高め、米国の競争力を強化する重要なディスインフレ要因」であり、FRBは利下げによって最も適切に対応できるだろうと論じた。

しかしFRB当局者の間では警戒感が強まっている。つまり、AIの進歩が実際の人員配置の慣行に反映されるまでにどれほど時間がかかるのか、そして「新技術は一時的に雇用を奪うが、最終的にはそれ以上の雇用を生み出す」という過去の経験則が今回も成り立つのか――その両点に不確実性があるという見方だ。

調査⁠会社シトリニ・リサーチが先週、AIによる業務代替が加速して景気が悪化するという極めて悲観的な分析結果を示すと、株式市場は一時的とはい‌え大きく売り込まれた。これは、投資家、そしておそらく一般の人々までもがAIに対する不安を強めていることを示している。さらにブロックによる人員削減の発表でAIが持つ破壊的な力が改めて⁠浮き彫りになった⁠と受け止められた。これまでの自動化は主に工場労働などブルーカラーの仕事に影響を与えてきたが、AIはコードを書く、データ分析をするといったホワイトカラーの仕事に適している可能性があるためだ。

多くの研究結果はAIが幅広い業務を遂行できると一貫して結論付けており、知識産業分野も例外ではない。ブルッキングス研究所のアナリストによる24年の論文は、米国の労働者の30%超が、自身の職務の半分が「混乱させられる」可能性があると答えており、その割合はさらに高まっている可能性が高いと指摘している。

<FRBも取り組み強化>

FRBは後手に回らないように努めている。AI、機械学習および関連分野に関するFRBの研究論文や政策担当者の講演をAIで集計したところ、22年‌末のチャットGPT公開以前にはほぼゼロだったが、23年は5件、昨年は約17件、そして今年はすでに14件と、速いペースで増えている。

連邦公開市場委員会(FOMC)の1月会合の議事要旨によると、こ​の会合では生産性‌とAIについて金融政策への意味合いを含めて充実した議論が⁠行われ、少なくとも5人の政策担当者がこのテーマについて発言した。

FOMCがグループとして、AIを​近い将来の利下げ理由とみなすことはなさそうだ。生産性が上昇しているように見える点では一致しているが、それがAIによるものか、それともパンデミック期の労働力不足の中で達成されたより平凡な効率化によるものなのかを判断する態勢は整っていない。

仮に生産性の「バトン」が今まさに渡されつつあるとしても、政策当局者は、AIは構造的に失業率を上昇させるものであり、単に利下げするだけでインフレ上昇リスクを伴わずに対処できるものではないとの見方に傾いているようだ。

「もしAIが今後も生産性を押し上げ続けるなら、労働市場で職の移動が増えて失業率が上昇したとしても、経済成長そのものは力強さを保つ可能性がある。こうした生産性ブームの局面では、‌失業率が上がっても、それがスラック(経済のゆるみ)を示しているとは限らない。そのため、需要を刺激する通常型の金融政策では、AIが原因で生じた失業の増加を和らげようとしてもインフレ圧力を高めてしまうだけで、十分に効果を発揮できないおそれがある」と、リサ・クックFRB理事は先月発言した。複数のメンバー​も同様の見方を示した。

この問題は決着していない。

エバーコアISIの副会長クリシュナ・グハ氏は、労働者の交⁠渉力の低下が、自然失業率が低下する要因になると見ている。従業員が職にとどまり、より低い賃上げを受け入れるようになることでインフレに下押し圧力がかかるとする議論であり、利下げという点ではウォーシュ氏と似た結論に至るが、理由はやや異なる。

しかしFRB当局者たちの公の場での発言からは、もっと複雑な実像が浮かび上がってくる。つまり、一部の労働者は仕事が脅かされる一方、別の分​野では新たな生産力が生まれ、株高で資産が増えた家庭では消費が押し上げられ、AI構築のための投資が進む地域では資源や供給能力が逼迫し、さらに高い投資リターンの期待が将来の基準金利を押し上げる可能性がある――など、AIを巡る状況は実に多面的だ。

リッチモンド連銀のバーキン総裁は先週こう述べた。「AIの普及がどれくらい進むのか、AIがどれほど効果的なのか、AIの省エネ性、AIが労働市場に与える影響(中略)そうした予測は世の中にあふれているが、一つだけ確実に言えるのは、『その予測は外れる』 ということだ。それが楽観的な側に外れるのか、悲観的な側に外れるのかは、物事が進む中で見極めていくしかない」

ロイター
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