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アングル:今のところ鈍いドルヘッジ、「余地大きく」市場は動向注視

2025年11月21日(金)18時50分

写真は米ドル紙幣。2016年11月に撮影。REUTERS/Dado Ruvic

Alun John Naomi Rovnick

[ロンドン 21日 ロイター] - 米関税ショックでドルが急落してからわずか数カ月後、海外投資家が米国の保有資産を通貨下落から守ろうとする動きは急減速している。

アナリストによると、投資家によるヘッジは歴史的に見ても高い水準にあるが、トランプ米大統領が関税政策を発表した4月2日の「解放の日」直後と比較してこうした動きはから鈍化している。

当時、米国資産を保有する外国人投資家は株価、債券価格、ドルの急落に見舞われた。機敏な投資家はドルのさらなる下落に対するヘッジに動き、その勢いは増すと見込まれた。しかしその動きは鈍化し、ドルは安定した。

野村のFX・新興国市場担当グローバル責任者デビッド・リー氏は「現在、顧客との間で交わされている話では、こうした(ヘッジ)フローは5月時点で示唆されたほど差し迫ったものではないようだ」と明かす。

ドル指数は6月末から4%近く上昇。上半期は1970年代前半以来となる約11%の大幅下落を記録していた。

ヘッジに関するデータは限られており、アナリストは数少ない公表数値や銀行・証券管理(カストディー)機関がまとめた数値から推測している。

カストディー業務で世界最大級のBNYが顧客のポジションを分析したところ、2025年序盤には米国資産を非常にロングにしていた。それが4月には一変し、ヘッジは通常より高水準になったが、市場が米利下げを予想し始めた23年終盤よりは低くなっている。

市場によっても異なる。

11月にナショナル・オーストラリア銀行(NAB)がオーストラリアの年金基金を対象に行った調査では、「米国株へのヘッジ行動に大きな変化はない」との結果が出ている。

一方、デンマーク中央銀行のデータによると、同国の年金基金によるヘッジは4月以降増加していたが、安定している。

コロンビア・スレッドニードルのウィリアム・デイビス最高投資責任者(CIO)によると、同社は当初、さらなるドル安から保有する米国株を保護するために動いたが、その後、これ以上下落しないとの見方からヘッジの一部を解除した。

HSBCのFXリサーチ担当グローバル責任者ポール・マッケル氏は「今年これまでには、雪だるま式にヘッジが加速するのではないかと騒がれたが、実際にはそうはならなかった」と指摘。来年については「注目しているが、われわれの基本シナリオにはない」と話す。

それでも投資家の行動は変化しているかもしれない。ブラックロックの推計によると、今年は欧州・中東・アフリカでの米株上場商品へのフローの38%が為替ヘッジありだった。24年は98%がヘッジなしだったという。

<コスト、相関関係、複雑性>

コスト要因や金利差にも左右されるため、市場ごとに状況は異なる。これらの理由でヘッジに消極的な可能性もある。

ラッセル・インベストメントの債券・FXソリューション戦略担当グローバル責任者バン・ルウ氏によれば、日本の投資家はドル安ヘッジに年率約3.7%ものコストを支払っている。

一方でユーロ建て資産投資家の同等のコストは約2%。同氏は「ユーロ建て資産への投資家の経験則では、コストが1%程度ならあまり気にしないが、2%になると気になってくる」と語る。

資産の相関関係も重要だ。伝統的に株価が下がるとドル高になり、海外投資家は米国のポジションを実質的に保護されることになる。

4月はそれが起こらず、ヘッジに殺到する一因となった。今月は株価が再び下落したため、ドルは堅調に推移した。

また、固定ベンチマークがヘッジされていない場合、そのベンチマークをアウトパフォームすることを目指す多くの投資家にとって変更も複雑だ。

フィデリティ・インターナショナルは欧州を拠点とする投資家に対し、ドル・エクスポージャーの50%をヘッジする方向へ徐々に移行することを推奨しているが、マクロ・戦略的資産配分担当責任者サルマン・アーメド氏は、ガバナンスやベンチマークの変更が必要となる可能性があり、「非常にややこしい」プロセスだと指摘する。

ドルに対して金利が動き、再びドル安が進んでヘッジが割安になれば、変更の圧力が強まる可能性がある。野村のリー氏は「ドル投資がヘッジされる余地はまだかなりある。それが起こるのかどうか、いつ起こるのか、為替市場が把握しようとしているのはその点だ」と述べた。

ロイター
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