ニュース速報
ワールド

アングル:南アジアで国境またぐ水害増加、求められる協力強化

2024年10月12日(土)08時13分

 南アジアでは豪雨の頻度が高まって国境をまたぐ洪水を引き起こしており、専門家は、地域各国による密接な協力の必要性を指摘している。写真は洪水の中で荷物を運ぶ人々。8月、バングラデシュ・フェニで撮影(2024年 ロイター/Mohammad Ponir Hossain)

Md. Tahmid Zami

[ダッカ 9日 トムソン・ロイター財団] - 南アジアでは豪雨の頻度が高まって国境をまたぐ洪水を引き起こしており、専門家は、地域各国による密接な協力の必要性を指摘している。

ネパールでは先月、ベンガル湾と国境近くのインド側で発生した低気圧の影響で豪雨が2日間続き、鉄砲水や土砂崩れが発生して200人近くが死亡した。8月には、インドとバングラデシュの国境付近で鉄砲水が発生し、少なくとも71人が死亡した。

世界銀行が2021年に発表した報告書によると、南アジアの主要都市の約80%が洪水のリスクにさらされており、2030年までに年間2150億ドル(約32兆円)の損害をもたらす可能性がある。

しかし、国境をまたぐ大規模災害の頻発にもかかわらず、信頼関係の欠如から南アジア諸国の間では協力が難しく、往々にして相互非難に発展している。

インドはネパールにとって最大の貿易相手国だが、両国間には国境紛争も数多く存在する。同様に、バングラデシュとインドは経済的に強い結びつきがあるが、水の配分や、不法越境者の殺害をめぐって対立している。

インドのFLAME大学の国際学教授、ハーシュ・バサニ氏は「この地域では政治的な相違があるため、どの国も河岸管理について他国を信頼していない」と述べた。

バングラデシュ政府の顧問は8月の洪水について、バングラデシュに流れ込む川にインドが何の警告もなく上流のダムから放水したことが原因だと訴えている。

これに対してインド外務省は声明で、水位上昇に関する即時データをバングラデシュと共有していたが、洪水による停電で共有が停止したと説明。この地域を襲ったのは「今年最も激しい雨」である上、いずれにせよ大半の水はダム下流の集水域から流れたものだと主張した。

声明は「インドとバングラデシュ両方を流れる河川の洪水は、両国民に苦しみをもたらす共通の問題であり、解決に向けて緊密な相互協力が必要だ」としている。

<早期警報>

河川や河岸湿地の管理を推進するバングラデシュの非営利団体リバーライン・ピープルの代表、シャイク・ロコン氏は、気候変動により8月の洪水のような異常気象は頻度と激しさを増す可能性が高いと予想。「しかし各国内、そして各国間の準備不足の言い訳に気候変動を使ってはならない」と語る。

2015年に仙台で開かれた国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組み2015─2030」には、各国は早期警報を発し、洪水が到達する前に地域社会が準備を進められるようにすべきだとうたわれている。

英国に拠点を置く開発組織「プラクティカル・アクション」のダラム・ラジ・ウプレティ氏によると、南アジアの脆弱な地域社会では、予報とタイムリーな情報伝達により、モンスーンが引き起こす洪水による死者数がほぼゼロに抑えられている。同組織はバングラデシュとネパールで洪水耐性プロジェクトを実施している。

ただ、モンスーンによる洪水は10日から12日ほど前に予測できるものの、雨による鉄砲水は兆候が乏しいため地域社会への警報にはより大きな課題があると、バングラデシュ洪水予警報センターのサルダール・ウダイ・ライハン氏は言う。

バングラデシュとインドは、国境をまたぐ54の河川の洪水警報について協力体制を育むため、1972年に合同河川委員会を設立した。インドとネパールにも同様の委員会がある。

しかし、ダムから放流される水や上流の水位に関するリアルタイムのデータ共有があれば、より役立つだろうとライハン氏は述べた。

<乏しい地域の連携>

オランダのバーヘンニンゲン大学のスミット・ビジ教授によると、各国が協調行動を採ることはまれだ。同じ洪水に適応するために各国がそれぞれ独自の戦略を整えてもほとんど意味はなく「災害に対処するためのリソースを共有する必要がある」という。

希少な協力の例として、ネパールからインドに流れるコシ川とカルナリ川を巡る対応が挙げられる。プラクティカル・アクションなどの組織が実施したこのプロジェクトでは、気象観測所の改良と、増水時に携帯電話に警報を送信するシステムの設置が行われた。プロジェクトは主にネパール側で実施されたが、国境付近に住むインド市民も洪水警報を受け取ることができ、恩恵を受けた。

現在、バングラデシュとインドの間では、両国を流れる河川のごく一部についてしか合意が成立していない。 ビジ氏は、両国は54の河川について個別に長期交渉を続けるのではなく、包括合意を結ぶべきだと指摘。「われわれ南アジア諸国は協力する必要がある」と訴えた。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院、国土安全保障省への資金法案可決 ICEは除

ワールド

トランプ氏のガザ和平案、8カ月でハマス武装解除・地

ワールド

中国、米通商慣行の対抗調査開始 即時の報復回避

ワールド

台湾、電気料金値上げ見送り 中東紛争でも物価安定優
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 5
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 6
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 7
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 8
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 8
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 9
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中