ニュース速報

ワールド

焦点:難題山積のEU、来年は英離脱選択なら壊滅的打撃

2015年12月21日(月)14時40分

 12月20日、EUはどこから見ても地獄だったが、来年は英国民がEU離脱に投票すれば、もっとひどい年になるだろう。11月ロンドン市内で撮影(2015年 ロイター/Toby Melville/files)

[ブリュッセル 20日 ロイター] - 今年の欧州連合(EU)はどこから見ても地獄だったが、来年は英国民がEU離脱に投票すれば、もっとひどい年になるだろう。

今年は難民の大量流入、ギリシャ債務危機、「イスラム国」による攻撃、ロシアの軍事行動など、政治、経済の両面で衝撃的な出来事が相次いだ。EU各地で国境審査が復活し、反EUを掲げる大衆迎合的な政治勢力が台頭し、EU各国は非難の応酬を繰り広げた。

欧州委員会のユンケル委員長は、EU内を自由に往来できる「シェンゲン協定」を締結している国々が国境審査を再導入すれば、ユーロ自体の存続も脅かされると警告を発した。

欧州の卓越した指導者であるメルケル・ドイツ首相は、大半がシリア難民である数十万人の受け入れに意欲を示し、「われわれにはできる」という精神を示した。しかしユンケル委員長の陰うつなトーンは、われわれを現実に引き戻す。

メルケル首相は、移民受け入れの分担についてEU諸国からほとんど支持を得ていない。

これには、ドイツがEUを支配することへの隠れた反発と、ユーロ圏の金融リスク負担に後ろ向きだったドイツへのしっぺ返しという面もある。

ドイツがロシアとエネルギー面で結び付いているのは偽善的だとの批判もある。フランスやオランダ、デンマークなどの国々はもっと単純で、移民排斥を主張する右派勢力の台頭を恐れて身動きが取れないでいる。

年末のEU首脳会議で、メルケル首相は集中攻撃を受けた。イタリアのレンツィ首相はポルトガルおよびギリシャの後ろ盾を得て、メルケル氏がユーロ圏の預金保証制度を受け入れようとしないことを非難した。

EUがウクライナ問題でロシアに制裁を課し、南欧へと延びるパイプライン計画を凍結している最中に、ドイツとロシアを直接結ぶガスパイプラインの建設をメルケル氏が支持したことを、バルト海諸国、ブルガリア、イタリアは許さなかった。

やり取りを聞いたある外交官は「部屋の中のほぼ全員がメルケル氏の敵だった」と語る。

2016年に一段と悪化しそうな問題として、欧州主要国指導者の政治力が弱まって内向きになる結果、必要な協調行動が取れなくなる恐れが挙げられる。

メルケル氏が首相の座にとどまれるかどうかは、来年ドイツに押し寄せる難民の数を抑え、移民問題を制御できているところを示せるかどうかにかかっている。

国内で「母」と慕われるメルケル氏を欠けば、EUはますます窮地に立たされるだろう。

フランスのオランド大統領にとって、今年は1月と11月のパリ攻撃がすべてだった。

大統領は2017年、極右のマリーヌ・ルペン氏と前任のニコラス・サルコジ氏を相手に選挙に臨み、再選を目指すが、フランスの経済状態は弱く、欧州における影響力は低下している。

キャメロン英首相にとっての関心事は、来年2月に英国のEU加盟条件変更を勝ち取れるかどうかの一点に集中している。これは首相が来年中に実施しようとしているEU残留の是非を問う国民投票で、多数の残留票を勝ち取るための必須条件だ。

首相は事実上、英国の将来を担保に入れて、EU内の東欧諸国出身の移民から、低所得の英国民労働者と同等の手当を取り上げようとしている。多くのEU諸国は、これを違法だと見なすだろう。

英国市民は移民への警戒感を強めている上、キャメロン首相のようなエリートへの反発ムードもある。さらには古くからの欧州懐疑的な姿勢をメディアが煽っているため、国民投票は不幸な結果になってもおかしくない。

欧州第二の経済大国にして二つの主要軍事勢力の一つである英国が、EU離脱に投票する最初の国になれば、EUの信頼感と国際的地位は壊滅的打撃を受けるだろう。

連邦主義者は英国がEUを離脱すれば、残りの諸国はますます結束を強めると信じたがっている。

しかしEU27カ国は東と西、南と北、自由市場主義と保護主義、社会主義と保守主義、国家主権派と統合推進派など、無数の対立が入り乱れているのが実情だ。

英国がEU離脱を選べば、ポーランドからデンマークに至るまで、その他の国々でも国民投票を求める声が湧き上がる可能性の方が高いだろう。

キャメロン首相が勝利して英国民がEU残留を選んだ場合でも、国内の目的のためにEUを人質に取るという首相の戦術を真似しようとする指導者が出てくる可能性がある。

あるEU高官は「残念ながら、われわれはキャメロン氏に勝ってもらう必要がある。しかしそれは欧州全体にとってリスクだらけだ」と話した。

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行ったと批

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン

ワールド

焦点:中国、社会保険料の回避が違法に 雇用と中小企
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子、ホッキョクグマが取った「まさかの行動」にSNS大爆笑
  • 3
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラドール2匹の深い絆
  • 4
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    海上ヴィラで撮影中、スマホが夜の海に落下...女性が…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 9
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中