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焦点:新聞業界に思わぬ「トランプ好景気」、広告増を招くか

2017年02月22日(水)08時31分

 2月16日、伝統的ニュースメディアに対して「野党」や「フェイク・ニュース(偽ニュース)」とこき下ろすトランプ政権の敵対的な姿勢は、電子版に読者や広告主を集めようと苦心する新聞業界にとって今年最大の希望になりつつある。写真は2016年11月、ニューヨークの新聞スタンドで、米大統領選の結果を伝える紙面(2017年 ロイター/Shannon Stapleton)

Jessica Toonkel

[ニューヨーク 16日 ロイター] - 伝統的ニュースメディアに対して「野党」や「フェイク・ニュース(偽ニュース)」とこき下ろすトランプ政権の敵対的な姿勢は、電子版に読者や広告主を集めようと苦心する新聞業界にとって今年最大の希望になりつつある。

ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ(FT)、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)やガネットは、2016年の大統領選挙期間中に、偏らない報道を戦略的に売り込むことによって獲得したデジタル版の購読者を、今後の足掛かりにしたいと願っている。

ただし、こうした新たな読者層が、広告収入につながるかどうかについては、リスクが残る。一部の新聞に対しては、政治的に偏向しているという批判もあるからだ。調査会社エデルマンが28カ国3万3000人以上を対象に行った調査では、メディアに寄せる信頼が過去最低となる35%にまで落ち込んでいる。

とはいえ、これまでのところ新聞社の経営幹部や投資家が楽観的に構えるだけの理由はある。

トランプ大統領がツイッター上の投稿で「破綻しつつある」と表現したニューヨーク・タイムズは、昨年10月─12月に電子版の有料会員が約27万6000人増え、過去最大の伸びを記録。今期の電子版の広告収入も10─15%増を予想している。同社は電子版の有料会員も20万人増加することを期待している。

WSJは直近の四半期で電子版の有料会員を約11万3000人増やした。約12%近い急成長だ。同社は、1月はさらに好調だというが、詳細は明らかにしていない。

FTの電子版有料会員数は昨年10月─12月に6%増加し64万6000人に達した。一方、ガネットの「USAトゥデー・ネットワーク」を構成する米地方新聞109紙のデジタル有料会員数は、同四半期に26%増えて18万2000人となった。

ガネットは、同ネットワークの一部であり有料課金モデルではないUSAトゥデーについて、収入が1.4%増加したと指摘。USAトゥデーの昨年10月―12月期の広告収入のうち68%はデジタル部門が稼いだものだという。

プロパガンダ目的で虚偽の記事を公開する「偽ニュース」サイトが増えるなかで、伝統的なメディアにとってもう1つの課題は、折に触れて彼らの報道を「偽ニュース」だと表現するトランプ大統領が示す敵意にどう対応するか、である。

大統領を補佐するスティーブ・バノン上級顧問は1月、ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、「野党は(民主党ではなく)メディアだ」と述べている。

<「傾きなし」と宣伝>

WSJは、大統領選の期間中にウェブサイトと紙面で、広告主と読者の信頼を得るための広告を掲載した。その1つはピンボールマシンの写真に「傾きなし。公平な選挙報道」というキャプションを付したものだ。

WSJは選挙後も、同紙のコンテンツは「現実の編集部で書かれ、編集され、校閲されたもの」だと強調する広告を掲載している。

購読料収入の増加に力を入れるニューヨーク・タイムズは、1月、「真実」と題するキャンペーンを開始。「真実。そのためにはあなたの支援が必要だ」と読者に購読契約を促すオンライン広告である。

ニューヨーク・タイムズのマーク・トンプソンCEOは最新の業績報告のなかで、同紙が公正で正確であることを読者に理解してもらうことに活路を見出しており、今後数週間でまた新たな販売キャンペーンを開始する計画だと述べている。

FTは、大統領選挙、そして現在はトランプ政権に関する報道を宣伝する「事実、真実」キャンペーンを行っている。

「USAトゥデー・ネットワーク」という呼称のもとで刊行物のブランド再編を行なったガネットは、同社が全米に地方紙ジャーナリストを抱えていることを強調するために大統領選挙を活用した、と最高マーケティング責任者アンディ・ヨースト氏は語った。

<広告主は集まるか>

選挙運動によってあおられた米国内の分断ゆえに、ブランド側は、政治的に偏っている印象のある出版物を避けているという。ロサンゼルスに本拠を置くブランド戦略代理店フェノメノンで戦略担当者を務めるナタリー・プラウト氏はそう指摘する。

たとえば、11月の選挙以来、あるブランドがハフィントンポストに広告を出稿すれば、そのブランドはリベラル派の主張を支持していると認識されることへの理解が高まってきた、とプラウト氏は言う。

またブランド側では、「フェイク・ニュース」と見られる記事に自社の広告が表示されてしまうことも懸念している。したがって、第三者を通じてデジタル広告枠を購入する「プログラマティック広告」を利用する場合にも、これまでより神経を尖らせている。

自社の広告が表示されたくないサイトを挙げるよりも、どのサイトに表示したいかを選択する出稿企業が増えている、とニューヨークに本拠を置く広告代理店ザ・メディア・キッチンのバリー・ローウェンタール社長は語る。

最近は購読者数が増えているとはいえ、新聞各紙は依然として強い逆風に悩まされていると新聞業界のアナリスト、ケン・ドクター氏は指摘。「紙媒体の広告料は急落している」とドクター氏。「基本的な状況は変わっていない」

WSJを系列下に置くダウ・ジョーンズの最高マーケティング責任者スージー・ワットフォード氏は、デジタル版購読者の増加は、たとえばカンファレンスなど、他の分野での広告出稿を促すうえでも有益であると話している。

「人々を呼び込む能力が上がるほど、健全な広告ビジネスを構築して維持することが可能になる」とワットフォード氏は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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