コラム

「コロナ危機」に乗じた改憲を許すな

2021年05月03日(月)13時20分
菅首相会見、3度目の緊急事態宣言

本当にやる気があるのは改憲と五輪だけ?(3度目の緊急事態宣言を説明する菅首相)

<政府はコロナ危機を口実に、憲法に私権を制限する緊急事態条項を明記しようとしているが、ロックダウンは現行憲法の下でも可能だった。やる気がなかっただけだ>

新型コロナウイルス感染者数が首都圏や京阪神地域で急増していることにともない、4月26日から東京都や大阪府で三回目の緊急事態宣言が発令されている。二回目の緊急事態宣言解除後から行うとされた政府の蔓延防止政策はあっさり失敗した。今や大阪府は事実上の医療崩壊状態となり、東京都も後に続くだろうといわれている。

コロナ対応の失敗

コロナ封じ込めに成功している国も多い東アジア・太平洋地域において、日本では感染者・死者数が拡大している。日本はいわゆる変異型ウイルスの上陸を許してしまっており、かなり凶悪とされるインド株も見つかっている。

新型コロナウイルスに対する政府の失策は明らかだが、GW明けに国民投票法の強行採決を予定している与党自民党はここにきて、有効なコロナ対応が打てなかった原因を、憲法に緊急事態条項が明記されていなかったことに押し付け始めた。緊急事態条項さえあれば、私権の制限を伴う強制力が高いコロナ対応ができたというのだ。

しかし、以前の記事でも触れたのだが、そもそも日本政府は緊急事態宣言を無駄打ちしている。この1年の日本政府のコロナ政策を振り返ってみても、日本政府のコロナ対応は欧米諸国と比べた時の感染者数の少なさを別としても、まったくやる気のみられないものだった。

対策の丸投げ

昨年春の学校の休校措置および一回目の緊急事態宣言によって、日本は新型コロナ第一波を比較的少ない被害で抑えることができた。しかし、休校措置に伴うカリキュラムの組みなおしやオンライン化についての方針決定は、すべて現場に丸投げされた。たとえば大学があのスピードでオンライン授業に移行できたのは、ひとえに現場の教員や職員の努力の賜物に他ならない。政府は何もせず、むしろ感染者数が徐々に増加し、大学でクラスターも発生しているにもかかわらず対面授業を要求して、大学の足を引っ張っている。

また一回目の緊急事態宣言における自粛も、ほとんど市民の自発的な呼びかけによるところが大きかった。商店の休業要請は、政府が休業補償に責任をもつことが確証されなければ効果はない。しかし当時の政府は2020年4月末に持続化給付金などの経済対策を閣議決定したものの、その具体的な申請方法や給付がいつになるかは未知数のままだった。たとえばドイツではロックダウンにともなう休業補償の決定から最短で3日後に、中小企業に60万円の給付金が振り込まれるなどしている。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

レゾナック、1―9月期純利益は90%減 通期見通し

ビジネス

三越伊勢丹HD、通期純利益予想を上方修正 過去最高

ビジネス

日経平均は続伸、景気敏感株上昇 TOPIXは最高値

ワールド

米公民権運動指導者ジャクソン師、進行性核上性麻痺で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story