コラム

ワシントン毛沢東シンポ報告――映し出した危機感と無防備

2016年09月26日(月)19時19分

米ワシントンの国会議事堂 Jonathan Ernst-REUTERS

 アメリカの共和党系シンクタンクProject2049が開催した国際シンポ「中国共産党と歴史戦」は9月20日、ワシントンで無事閉幕した。中国共産党自身の真相の隠蔽と歴史戦によって狙う新たな覇権と日本の無防備が映し出された。

共有された中国共産党自身の歴史歪曲の危険性

 アメリカ時間の9月20日午後2時、国際シンポジウム「中国共産党の歴史戦」はワシントンDCのNational Press Club(国家記者クラブ)で開催された。荘厳な建物を照らし出す空は澄み切っていたが、筆者にとっては真夜中の2時~3時。時差で朦朧とした頭を強引に昼夜逆転している会場に合わせた。

 主催者Project2049のCEOランディ・シュライバー氏は「中国共産党自身の歴史に対する歪曲は、いまや中国国内においてだけでなく、国際社会にもその影響を及ぼしている」と冒頭で述べた。

 彼によれば、中国共産党が自らの歴史の何を強調し、何を隠そうとしているかは、北京の天安門広場にある中国歴史博物館に行けば、たちどころに分かるだろうとのこと。なぜならそこには、趙紫陽などの指導者の顔が削除され、文革や大飢饉などで数千万に及ぶ無辜(むこ)の民の命を犠牲にしたという、人類史上まれに見る事実は描かれてないからであるという。

 さらに、とシュライバー氏は続けた。

 日中戦争のときに、いったい誰が主体となって戦ったのか、その歴史の真相を適宜カットしてコントロールし、ナショナリズムを煽って中国の軍事力強化の正当性と中国共産党統治の正当性を主張していると。

 それに続く筆者の「毛沢東 日本軍と共謀した男」に関するスピーチは、シュライバー氏が抱く危機感と完全に一致しており、隠蔽の原因が「日中戦争中に毛沢東が日本軍と共謀していた事実」にあることと、それを隠蔽し続けるために更なる歴史戦を中国は挑み、中国共産党の統治の正当性と世界覇権を正当化している危険性を指摘した。

 その様子は、Project2049にもあるが、英語だし、なかなか映像が出てこないので、むしろ日本語でまとめてくれている「毛沢東は日本軍と共謀していた 日本人研究者が指摘」をご覧下さったほうが分かりやすいかもしれない。

 筆者はスピーチで、「中国共産党は国内における統を正当化しようとするあまり、軍事的にも経済的にも、そして文化的にもglobal hegemony(グローバルな覇権)を強化している」と述べたが、まるでそれを証明するかのように、帰国後すぐに、中国の軍用機が沖縄本島と宮古島の間の上空を通過する大規模な飛行訓練を行い、自衛隊機が緊急発進したことを知った。

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウ大統領、和平案巡り「困難な選択」 トランプ氏27

ワールド

米、エヌビディア半導体「H200」の中国販売認可を

ワールド

プーチン氏、米国のウクライナ和平案を受領 「平和実

ビジネス

ECBは「良好な位置」、物価動向に警戒は必要=理事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story