さらなる暗黒地域が...ミャンマー詐欺拠点「大救出劇」で浮き彫りになったサイバー詐欺産業の脅威

SOUTHEAST ASIA’S SCAM INDUSTRY “CRACKDOWN”

2025年3月12日(水)17時00分
ジェイコブ・シムズ(ディプロマット誌コラムニスト)

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JKIWA/SHUTTERSTOCK(MAP)

そもそも今回の「電撃作戦」は中国からの執拗な圧力を受けて行われた。中国政府の高官がミャワディを訪れるという直接の圧力もあれば、隣国タイへの間接的な圧力もあった(結果、タイ政府は当該地域への電力供給と通信アクセスを遮断するなどの措置を取っている)。

監禁され、強制的にサイバー詐欺に従事させられていた人たちが解放されたのは、この圧力が効いた証拠だ。しかし、それでBGFやDKBAの戦略が変わるわけではない。あくまでも推定だが、彼らの支配地域にはサイバー詐欺に関与する人が10万人以上いるとされる。その1割程度が失われても、人材の補充は簡単にできる。


ただし詐欺市場には変化が生じる可能性がある。米国平和研究所のジェーソン・タワーによると、中国政府からの圧力が強まると犯罪組織は(中国人よりも)欧米人を詐欺の標的にする傾向がある。

今回の「摘発」は国際的に注目され、BGF/DKBAを称賛したり、そのプロパガンダをうのみにしたりする向きが多い。だが彼らの行動は中国からの圧力をかわし、長期的に詐欺ビジネスを持続させる試み以外の何ものでもない。

加えて、BGF/DKBAは大規模な「送還」を予告することによって、当座の受け入れ国となるタイを窮地に陥らせることができる。タイ政府に財政的な余裕も、解放された人々の出身国にも送還費用を負担する余裕もないからだ。

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