最新記事
AI

ウクライナ、戦闘映像集積228年分 戦場で判断を下すAIモデルの訓練用に貴重な資源

2024年12月26日(木)11時10分
ドネツク地方の前線でドローン攻撃を行うウクライナ兵

12月20日、将来の戦争の軸足が人工知能(AI)へと移る中、ウクライナが貴重な資源を手にしている。 写真は6月、ドネツク地方の前線でドローン攻撃を行うウクライナ兵(2024年 ロイター/Inna Varenytsia)

将来の戦争の軸足が人工知能(AI)へと移る中、ウクライナが貴重な資源を手にしている。無人機(ドローン)が戦場で撮影した計数百万時間に及ぶ映像で、戦場で判断を下すAIモデルの訓練に使用することができる。

ロシアがウクライナに全面侵攻を開始して以降、AIは人間よりも素早く画像を分析し、標的を識別している。

ウクライナには、非営利デジタルシステムOCHIがある。前線配置のドローン操縦者1万5千人以上が取得した動画データを一元的に集め、分析するのが特徴だ。創設者オレクサンドル・ドミトリエフ氏がロイターに明らかにしたところでは、ロシアが侵攻した2022年以降、ドローンから200万時間、つまり228年分の戦場映像を収集した。

AIに学習させるには膨大な映像が重要なデータとなる。同氏は「これはAIの糧だ。AIに学習させたいなら200万時間(の映像)を与えれば人知を越えた何物かになるだろう」と話し、兵器にとって最も効果的な軌道と角度を研究できるのがAIプログラムだと付け加えた。

同氏によると、戦闘により、平均して毎日5テラ―6テラバイトの新しいデータが追加されている。

ウクライナの国土防衛を支援する国々の一角がOCHIのシステムに関心を示し、代表団と話し合いをしているという。ただ、同氏は詳細を明らかにしなかった。

ドローン収集の膨大な映像データについて、米シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」の客員上級研究員サミュエル・ベンデット氏は、一体何を視野に収めていて、取るべき行動は何かをAIシステムに学習させる上で非常に価値が高いだろうと述べた。

米戦略国際問題研究所(CSIS)のワドワニAIセンターの研究員カテリーナ・ボンダール氏は、映像データはロシアと戦うための訓練という文脈で貴重だと指摘した。ただ、米当局やドローンメーカーは「ウクライナの野原や森の映像を大量に収集するよりも、現在の米国の最優先事項である中国との戦いに使用可能なシステムを準備したがっている」と述べた。

ウクライナには、国防省が開発した「アベンジャーズ」と呼ばれるシステムもある。ドローンや監視カメラ(CCTV)の映像を一元収集するものだ。

同省はこのシステムに関する情報提供を拒否した。同省は以前、アベンジャーズがAI識別ツールを使って週に1万2000個のロシア軍装備品を見つけ出していると発表していた。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米5月小売売上高‐0.9%、4カ月ぶりの大幅減 自

ワールド

北朝鮮、クルスク復興に工兵派遣へ ショイグ氏が今月

ビジネス

日産、3代目「リーフ」を米で今秋発売 航続距離など

ビジネス

アングル:日銀、経済下押しの程度を注視 年内利上げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 9
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中