最新記事
中国

年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

2024年5月12日(日)16時22分
ロイター
中国の高齢者

中国陝西省西安の路上で30年にわたって路上で自家製パンを販売していた67歳のフー・デジさんは、できることならそろそろ楽な生活を送りたかった。写真は4月、北京のショッピングモールで清掃業務に従事するフーさん(2024年 ロイター/Tingshu Wang)

中国陝西省西安の路上で30年にわたって路上で自家製パンを販売していた67歳のフー・デジさんは、できることならそろそろ楽な生活を送りたかった。

ところが、実際には今、年上の妻とともに北京の外れまで出向いて午前4時から毎日、弁当調理の仕事をこなした後、1時間以上かけて市内中心部のショッピングモールに移動。13時間も清掃業務に従事している。そこでの収入は毎月4000元(552ドル)だ。

フーさん夫妻や、この先10年で退職年齢に達する農村からの出稼ぎ労働者1億人の多くにとって、こうした激務が嫌ならば田舎に戻り、小さな畑と毎月たった123元(17ドル)の年金で暮らすしかない。

モップがけをしながら取材に応じてくれたフーさんは「誰も私たちの面倒を見られない。二人の子どもに負担はかけたくないし、国は(少額の年金以外)ビタ一文も恵んでくれない」と明かした。

フーさんたちは、前世紀末に農村から都市に大挙やってきてインフラ建設や工場労働に携わって中国を世界最大の輸出国にした世代だ。だが、人生の終盤になって生活水準が大幅に低下するリスクにさらされている。

ロイターが出稼ぎ労働者や人口統計学者、エコノミスト、政府アドバイザーら十数人に話を聞いたところでは、中国の社会保障制度は悪化する一方の少子高齢化に適応できなくなっていることが分かる。

産業近代化を通じた成長を追い求めようとしてきた政府は、この制度を抜本的に見直さないまま、場当たり的な対策しか講じてこなかった。同時に社会保障サービスの需要は、高齢化の進展とともに急拡大しつつある。

人口統計学者でウィスコンシン大学マディソン校のシニアサイエンティストを務めるフージャン・イー氏は「中国の高齢者は長く惨めな生活を送ることになる。故郷に戻る出稼ぎ労働者が次々に増えており、一部は生き延びるために低賃金で働いている」と指摘した。

これらの出稼ぎ労働者が引退して基本的な年金だけに頼ろうとすると、世界銀行が定める1日当たり3.65ドルという貧困ライン未満での生活を強いられる。そのため多くの人は都市で引き続き働いたり、家の畑で収穫した農産物を売ったりして生計の足しにしているのだ。

中央政府の関係各省庁からは、この問題についてのコメント要請に回答がなかった。

中国の最新統計によると、2022年時点で全労働力人口7億3400万人のうち、約9400万人は60歳を超えており、その比率は20年の8.8%から12.8%に高まった。

まだ、日本や韓国を下回っているが、今後10年間でさらに3億人が60代に突入するため、労働力人口に占める比率は跳ね上がるだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国中古住宅価格、4月は前月比0.7%下落 売り出

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ

ワールド

パレスチナ支持の学生、米地裁判事が保釈命令 「赤狩
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中