最新記事
銀行破綻

米銀破綻は問題を抱えたクレディ・スイスに飛び火した ──連鎖の始まりか

Credit Suisse offered lifeline as default risk grows

2023年3月16日(木)15時15分
ニック・レイノルズ

まさか次はスイス大手!?(チューリヒのクレディ・スイス本社) Arnd Wiegmann-REUTERS

<投資家の間に不安が広まり、スイス銀行当局が「必要なら介入」と宣言>

米金融市場の混乱のなか、欧州でも金融大手クレディ・スイスの信用不安が表面化し、スイスの銀行当局が「命綱」を差し出した。

3月に入り、米銀行大手のシルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー・バンクが相次いで破たんしたことを受けて、クレディ・スイスの5年物CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の保証料は跳ね上がり、3月15日に過去最高を記録した。その前日には同銀行が悲観的な内容の年次報告書を発表していたこともあり、クレディ・スイス破綻の懸念の声が一気に高まった。

(2008年の金融危機を予測した経済学者ヌリエル・ルービニは14日、欧州には少なくとも一つ、危ない大手銀行があり、そこに問題が生じれば金融システムの問題になると本誌に話していた。→「金融危機を予測したルービニ教授が世界規模の危機を警告」)

スイスの規制当局は15日、投資家の不安を和らげるために、アメリカの一部銀行の問題が「スイスの金融市場に直接波及するリスクはない」と声明を発表。利上げによる米国債下落がクレディ・スイスの純利益に悪影響をもたらしている可能性はあるものの、必要とあればスイス政府が介入することは可能だと強調した。

スイス国立銀行(中央銀行)とスイス金融監督局は、15日午後に発表した声明で、「資本と流動性に関する厳格な基準により、スイスの金融機関の安定は保証されている」と述べた。「クレディ・スイスはその要件を満たしているし、必要とあれば、スイス国立銀行が流動性を供給する」

離れていく投資家たち

長年にわたるマネーロンダリング(資金洗浄)防止義務違反や元行員による詐欺事件などの問題も、クレディ・スイスに対する懸念に拍車をかけ、一部の著名株主が同社から撤退する意思表明をする事態となっている。15日には、クレディ・スイスの株式の9.88%を保有するサウジ・ナショナル・バンクの当局者が、持ち分が10%を超えると新たな規制の対象となることを理由に、クレディ・スイス株を今以上買い増すつもりはないと表明。これを受けて、同銀行の株価は一時31%も下落した。

サウジ・ナショナル・バンク当局者のコメントを受け、クレディ・スイスの債務不履行リスクを取引する金融派生商品クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料は上昇した。このことは、投資家たちがクレディ・スイスの債務不履行を予想していることを示している。

住宅バブルの崩壊で住宅ローンが一斉に焦げ付いた2008年の金融危機では、住宅ローンの証券化商品が相次いで債務不履行に陥り、大手保険会社の支払い能力を超えるCDSの保険料請求が舞い込んだ。著名投資家ウォーレン・バフェットは当時、CDSを「金融の大量破壊兵器」と呼んだ。
(→「AIGを潰したのは、クレジット・デフォルト・スワップ。

スイス国立銀行が声明を出した背景には、米銀破たんによって生じた金融不安があった。アメリカでは3月10日に、シリコンバレーのスタートアップ企業に積極的に融資を行っていたシリコンバレー銀行(SVB)が経営破たんした。複数の著名投資家がツイッターでパニックを煽ったこともあり、大口預金者たちがオンラインバンキングで資金引き出しに殺到する今風の「取り付け騒ぎ」が起きたことが、その主な原因だ。

この事態を受けて、米政府は数十億ドルを拠出して異例の預金全額保護を発表した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中