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地政学リスクを和らげるのは「水」? 気候変動対策で日本ができることとは

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2022年1月31日(月)11時00分
ニューズウィーク日本版広告制作チーム

沖教授(中央)とJICA地球環境部部長・岩崎英二(左)と広報部審議役・見宮美早(右)

沖教授(中央)とJICA地球環境部部長・岩崎英二(左)と広報部審議役・見宮美早(右)

インフラ大更新時代の日本ができること

──日本国内では、水道施設の高齢化が問題となっているという。今や年間で約2万件もの水道管の破裂が起こり、毎日60カ所で水が吹いていることになる。戦後77年、日本はインフラを更新すべき時期を迎える。課題先進国の日本ができることは何か。

岩崎 JICAではすべての人々が安全な水を得られる社会の実現を目指して途上国への国際協力を推進しています。国際協力の担い手として、北は北海道から南は沖縄まで全国の水道局の皆さんにご活躍いただいています。日本の安全な水を支えている方々に途上国に行っていただくと、住民が安全な水を求めて苦労している状況を目の当たりにするのですが、頭が上がらないほど奮闘されます。日本の水道を担うプロフェッショナルとしての使命感が湧いてくるのではないかと感じます。

 人の役に立てる、あるいは自分の能力が活かされるのは、実に幸せなことだと思います。宇沢弘文先生*は『社会関係資本』という概念を示した本の中で、いい社会というのは各人がそれぞれの能力に応じて活躍できている状況だと必ず説かれています。

*宇沢弘文(うざわひろふみ、1928〜2014年)は日本を代表する経済学者。従来の経済成長モデルを消費財と投資財の2部門で構成する洗練された形にした「二部門成長モデル」に改良。理論の適用範囲を広げて後続の研究者や発展途上国の経済に大きな影響を与えた。

岩崎 水道局の上層部に聞きますと、日本のインフラも過渡期に入りつつあり、維持や管理が難しくなっているそうです。一方、今の日本では一から水道システムをつくるような経験をさせることができない。今後迎えるインフラ大更新時代において、新しい発想でシステムをつくる必要があるにもかかわらず、国内ではシステム構築の経験を積ませる機会がなかなかないのが悩みだそうです。そういった意味で、途上国への協力では、自分たち水道局の技術の継承や発展にも役に立っていて、援助は人の為ならずだと伺い、非常に感銘を受けたことがあります。

 タイで科学技術協力に関して共同研究を行っていると、いいアイデアを出すとシンプルに「それはいいね」とすぐに採用され、行政の施策に反映される場合もあるのが面白いところです。日本ではまず、そういう機会はありません。そういった経験をJICAとの連携事業ではさせてもらっていますし、やりがいにつながっています。

水問題へのアプローチに必要な「共創」の姿勢

岩崎 日本の治水や安全な水供給の経験を途上国に伝えていくことを使命としていた我々ですが、先ほどの水道インフラ更新、激甚化する水災害対応そして脱炭素社会の構築等、日本自身も試行錯誤している状況です。今後、どのような形で世界の水問題と向き合っていくべきでしょうか。

 技術面では、新しい技術だけでなく、旧来のものやローテクなものとの組み合わせで安価に提供することもできるはずです。自然の機能をうまく使った防災対策(ネイチャー・ベイスド・ソリューション)など、工夫できる余地があると思います。

また、これまで基礎インフラの整備は地域特性もあるため、完全オーダーメイドなものでしたが、他地域にも応用できるようにセミオーダー化していかなければならないと思います。それは世界各地で事業を展開し、知見のあるJICAにできることではないでしょうか。そういった水平展開を担える人材の確保も重要になってきますね。

岩崎 人材育成は最も重要な柱だと思っています。

 あるいは、日本も試行錯誤をしている段階であれば、途上国に日本を真似てもらうのではなく、一緒に考えるコクリエーション(共創)、コラボレーション(協働)する枠組みをつくってはどうでしょうか。先程の日本の水道局の方がおっしゃっているような学ぶ場を提供することにもつながりますし、政策実施機関であるJICAだからこそプラットフォーマーとしての役割を果たせるようになるのではないかと期待します。実際に、私もタイの事業などで、カウンターパートと共に考え、創り出し、連携することを若い学生たちとともに楽しんでいます。

見宮 どちらかが与える、与えられるではなく、双方向であることは目指していきたいことです。

 何かに貢献できると実感することは、とても大事なことだと思います。目の前の課題に気付くことから始まると思いますが、それは別に海外でなくてもいいでしょう。さまざまな現場に足を運び、隠れている課題に気付けるようになることも重要です。

岩崎 水問題をきっかけに、気候変動、世界の食糧、移民問題、さらには国際協力と日本自身の問題へと関心が広がる機会になりました。ありがとうございました。

沖大幹教授

沖 大幹(おき・たいかん)

1964(昭和39)年東京生まれ。東京大学工学部卒業、博士(工学)、気象予報士。2006年から東京大学教授。2016年10月より2021年9月まで国際連合大学上級副学長、国際連合事務次長補。地球規模の水文学および世界の水資源の持続可能性を研究。気候変動に関わる政府間パネル(IPCC)第5次報告書統括執筆責任者、国土審議会委員ほかを務めた。水文学部門で日本人初のアメリカ地球物理学連合(AGU)フェロー(2014年)。2021年国際水文学賞Doogeメダル。書籍に『SDGsの基礎』(共著)、『水の未来 ─ グローバルリスクと日本』(岩波新書)、『水危機 ほんとうの話』(新潮選書)、『水の世界地図第2版』(監訳)、『東大教授』(新潮新書)など。

※本インタビューは、新型コロナウイルス感染症の予防を徹底したうえで行いました。

取材・文=網代えり子
撮影=片山貴博

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