最新記事
フィリピン

「ワクチン未接種者は寝ている間に強制接種だ!」 比大統領、ドゥテルテ節放つも虚しく響く

2021年10月13日(水)19時44分
大塚智彦

一方でフィリピンのコロナ感染者・死者数は10月13日現在でそれぞれ約268万人、約3万9000人で、ともに東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中ではインドネシアに次ぐ2位と不名誉な記録となっている。

フィリピン政府は2021年末までに7000万人の接種を完了するとの目標を掲げていたが、現状のままでは実現は困難な状況となっている。

マニラ首都圏に限ると人口750万人が接種を受けその接種率は約77%と高い水準になっており、地方や農村部での接種が進んでいないことが顕著となっている。

地元メディアなどによると、フィリピンで接種が進まない理由として、副反応への不安や中国製ワクチンに対する安全性・有効性への疑問などが背景にあるとされ、民間の調査機関の調べでは国民の61%が接種を「受けない」あるいは「受けたくない」としていることもわかっている。

大統領選不出馬も影響か

2022年5月の次期大統領選挙にドゥテルテ大統領は当初、最大与党「PDPラバン」から副大統領候補として出馬を表明していたが、大統領としての再選が憲法で禁止されていることから「大統領経験者が副大統領選に出馬することの正当性」が問われ、最終的に出馬を断念した経緯がある。

任期が2022年5月までとなる中で、ドゥテルテ大統領が実績作りとして最大の国民的課題であるコロナ対策でワクチンの接種率を上げて「功績を残したい」との意向があるとの見方が有力だ。

ドゥテルテ大統領は2016年の就任直後から進めてきた麻薬犯罪対策で捜査現場での警察官による司法手続きを経ない容疑者の射殺という「超法規的殺人」の黙認によって内外から厳しい批判を浴びている。

このため大統領退任後に「人権侵害」などで訴追される可能性も現実的になってきているとされ、コロナ対策で少しでも「プラスの成果」を残そうとしているとみられているのだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な

ワールド

インド4月自動車販売、大手4社まだら模様 景気減速

ワールド

米、中国・香港からの小口輸入品免税撤廃 混乱懸念も

ワールド

アングル:米とウクライナの資源協定、収益化は10年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中