最新記事

中国

中国停電の真相──背景にコロナ禍を脱した中国製造業への注文殺到も

2021年10月4日(月)13時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

9月18日になると、国家発展改革委員会が「双控制度」に関する記者会見を開き、「双控制度」に関して非常に厳しい要求を突き付け、「さあ、これが目に入らぬか」とばかりに、全国各地区の上半期の実施状況に関する一覧表を公表した。

中国語なので、それを日本語に訳して作成し直した一覧表を以下に示す。

図表2:2021年上半期各地区エネルギー消費双控目標完成状況晴雨表

endo20211004120602.jpg
出典:国家発展改革委員会のデータを筆者が日本語に翻訳して作成

図表2では、

赤●は「エネルギー消費強度がむしろ増加している、非常に厳しいレベル」

黄色●は「エネルギー消費強度は減っているが、やや厳しいレベル」

緑●は「双控状況が順調であるレベル」

を示す。なおチベット自治区に関してはデータが不十分で警告判断対象地区から外してある。

こんなものを出されたらたまらない。まるで脅しのようなものだ。

中国では各地区(各地方人民政府)の取り組みの業績を提示されると、審査と評価と処罰を突き付けられたように反射的に競争心と警戒心が強く働く。

そうでなくとも3月に「闇採掘」者には刑事罰を与えるという恐ろしい法改正がなされたばかりではないか。

各地区の関係者は、あわてて目標達成に向けて突進し始めた。

東北三省における特殊事情

日本で連日のように報道されているのは大連とか瀋陽など、東北三省(黒竜江省、遼寧省、吉林省)における停電である。

図表2を見る限り、東北三省は緑色が多く、むしろ成績が良いではないかと思われるだろう。ところが実態は異なる。

ここに現れているのは、実は「製造業」など、加熱する業種に関する警告だ。

東北三省は改革開放の波に圧されて、建国以来の重工業は何とか保っているが、今や花盛りの、軽やかに舞うハイテク産業などに関しては取り残されたままだ。したがっていわゆる海外の需要が殺到している「製造業」に関する電気消耗が普段からない。

そのため東北三省における石炭による火力発電の電気量を、近隣の華北省や山東省などに売り、送電によって地方財政の一部を支えているような側面がある。

この送電契約は破棄するわけにはいかない。

また重工業は、電気を止めることが困難で、どこかの生産ラインを暫時止めましょうというわけにはいかない。

そこで、図表2にある一覧表が示されると、東北三省の地方政府は中央からのお咎(とが)めを避けるために、なんと、一般庶民に提供する民生用電気をカットし始めたのだ。

これが大問題になった。

一般庶民の日常生活が侵され、信号が止まって尋常ならぬ渋滞を来たしたりしたので、スマホなどで容易に可視化できるため、世界の耳目を集める結果に至ったのである。

たとえば南方の、深圳がある広東省などは製造業が真っ盛りの地域だ。中国のハイテク産業の生命線でもある。こういった地域は普段から「有序用電(秩序を以て電気を用いる)」という習慣がついているので、電気量が足りなくなった時には、どのラインを止めるとか昼夜逆転などの時差操業をするなど訓練ができている。

しかし東北三省には、日ごろの、そのような心構えも準備態勢もないので、慌てふためいて民生用電気に手を付けてしまったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中