最新記事

感染症

脳に侵入する「殺人アメーバ」が地球温暖化により北上しているおそれ

2020年12月21日(月)17時30分
松岡由希子

「殺人アメーバ」と呼ばれているアメーバの一種「フォーラーネグレリア」...... Dr_Microbe-iStock

<鼻腔を通じてヒトの脳に侵入し、「殺人アメーバ」と呼ばれているアメーバの一種が、温暖化で徐々に北上していることがわかった...... >

摂氏45度までの温かい淡水で生息するアメーバの一種「フォーラーネグレリア」は、鼻腔を通じてヒトの脳に侵入し、致死率の高い中枢神経系の感染症「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」を引き起こすことから、「殺人アメーバ」と呼ばれている。

フォーラーネグレリアは、川や池、湖など、汚染された淡水で遊泳している間に、鼻から侵入して中枢神経系に達し、原発性アメーバ性髄膜脳炎を引き起こす。やがて嗅覚障害や味覚障害が現れ、さらに頭痛や嘔吐といった症状が急速に進行して、発症から3〜7日以内に死に至る。

近年、中西部でも確認されている

米国で1978年から2018年までに報告された原発性アメーバ性髄膜脳炎の症例数は計120件で、毎年8件以下のペースで症例が確認されている。日本でも、1996年11月に原発性アメーバ性髄膜脳炎の症例が初めて報告された

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の研究チームは、1978年から2018年までに米国で報告された原発性アメーバ性髄膜脳炎の症例85件を分析し、2020年12月16日、その研究結果をCDCの専門誌「エマージング・インフェクシャス・ディジージズ」で発表した。これによると、これまで主に南部の州で見つかっていた症例が近年、中西部でも確認されているという。

map_n_fowleri_cases.jpg

credit: CDC/Emerg Infect Dis

原発性アメーバ性髄膜脳炎の感染源となったのは、69件が湖や池で、14件は川、2件は屋外のレクリエーション施設であった。1978年から2018年までの年間症例数は0〜6件で、その傾向はあまり変動していない。

症例を地域別にみると、南部が74件と圧倒的に多く、西部で5件、中西部で6件となっている。中西部で報告された6件の症例のうち5件は、2010年以降に確認されたものだ。

年間およそ13.3キロ北上していた

コンピューターモデルを用いて症例が確認された最大緯度の変化を調べたところ、年間およそ13.3キロ北上していたことがわかった。また、症例発生日前後の気象データを分析した結果、フォーラーネグレリアに曝露する直前2週間の日中の気温は、過去20年間の平均気温よりも高かったことも明らかになっている。

研究チームは、一連の研究結果をふまえ、「気温の上昇とこれに伴うレクリエーション用水域の拡大が、原発性アメーバ性髄膜脳炎の疫学的変化をもたらしたのではないか」と考察している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:「高市トレード」に巻き戻しリスク、政策み

ワールド

南アフリカ、8月CPIは前年比+3.3% 予想外に

ビジネス

インドネシア中銀、予想外の利下げ 成長押し上げ狙い

ビジネス

アングル:エフィッシモ、ソフト99のMBOに対抗、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中