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終戦の日

戦後75周年企画:連合軍捕虜の引き揚げの記録を初公開 ~あの日、何があったのか【Part 1】

2020年8月15日(土)12時00分
小暮聡子(本誌記者)

1944年クリスマスに釜石収容所の内庭で撮影した記念写真。最前列右端からシテンヘーハー中尉、ブライストラ少尉、パイマ軍医、真ん中にあぐらをかいているのが稲木誠。クリスマスツリーの右手に無帽で立っているのがフックさん。1978年、パイマ軍医の未亡人が持っていた写真がフックさんを通じて稲木に寄贈された。COURTESY KOGURE FAMILY

<終戦の日、日本国内には130カ所の連合軍捕虜収容所があり、岩手県釜石市に746人の捕虜がいた。ここに発表するのは、彼らが引き揚げるまでの1カ月間について克明につづられた未発表のノンフィクションだ。その全文を4回に分けて公開する>

 第二次世界大戦中、日本国内の130カ所に連合軍の捕虜収容所があったことは、いま日本の歴史としてどれほど記憶されているだろうか。

 日本軍はアジア・太平洋地域で捕らえた約14万人の連合軍捕虜のうち、約36000人を輸送船で日本に送り、国内各地の炭鉱や鉱山、造船所や工場などで働かせていた。捕虜たちの生活は過酷を極め、終戦までに約3500人が死亡した。死因は飢えや病、事故や日本軍による虐待、連合軍による爆撃などだった。

 岩手県釜石市にあった釜石捕虜収容所も、連合軍による砲撃を受けた1つである。当時、岩手県釜石市には釜石捕虜収容所(正式名:仙台俘虜収容所第5分所)と大橋捕虜収容所(正式名:仙台俘虜収容所第4分所)の2カ所があり、日本製鉄釜石製鉄所と、日本製鉄大橋鉱業所が使役企業となって捕虜を働かせていた。

 連合軍捕虜の国籍はオランダ、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドで、釜石と大橋の両収容所にそれぞれ約400人が収容され、終戦時には釜石市内に746人の捕虜がいた。

 釜石市は1944年7月14日、米海軍による本土初の艦砲射撃に見舞われた。東北地方有数の軍需工場である釜石製鉄所を沿岸部に擁していたため、長崎に原爆が投下された8月9日に再び、米英軍による艦砲射撃にあった。この砲撃と爆撃により、釜石収容所では32人の捕虜が亡くなった。

 1945年8月15日。正午の玉音放送によって日本が終戦を迎えると、それまで捕虜を管理していた日本軍と、捕らわれの身だった連合軍の間で立場が逆転した。連合軍の巡洋艦が釜石港に現れ、捕虜598人が引き揚げていったのは9月15日のことだ。釜石市の収容所関係者にとっては、捕虜たちを連合軍に引き渡したこの日が、任務を終えた終戦の日だった。

 ここに発表するのは、釜石捕虜収容所の所長を務めていた故・稲木誠の手記である。稲木は1944年4月から釜石と大橋の両収容所長を兼務し、1944年7月からは釜石収容所長の専任となった。

 稲木は戦後、時事通信社の記者となり、自身の戦争体験を『茨の冠』(1976年、時事通信社)と『巣鴨プリズン2000日』(1982年、徳間書店)などの形で発表したあと1988年に他界したが、これらの他に「降伏の時」(ペンネーム:中山喜代平)と題した未発表の原稿を遺していた。1945年8月15日から9月15日までの1カ月間について、捕虜が引き揚げるまでの日々をつづった原稿用紙132枚のノンフィクションだ。

 捕虜問題に詳しい恵泉女学園大の内海愛子名誉教授と、国内の連合軍捕虜について緻密な調査を元に『連合軍捕虜の墓碑銘』(草の根出版会)を上梓した笹本妙子氏に本稿「降伏の時」を見てもらったところ、終戦時の収容所の実態と敗戦処理を日本人側から克明に捉えたものとして稀に見る貴重な記録だという。稲木がこの間につけていた「分所長忘備録」や元捕虜の手記などと照らし合わせても、捕虜が引き揚げるまでのタイムラインにほぼ間違いはないと思われる。

 戦後75年が経ち、故人の未編集の原稿を発表するに当たって旧字を改めるなど幾分かの手直しはしたが、資料的側面を優先し大幅な改編は避けた。また戦時中の呼び方として、「俘虜」(捕虜のこと)は原文のままとした。

 なお、本稿に登場する釜石収容所の先任将校の終戦時の年齢を米軍資料で照合すると、蘭軍のジョージ・パイマ軍医は41歳、ビクター・シテンヘーハー中尉は37歳、米軍のフランク・グレイディ大尉は32歳、英軍のビビアン・ブラックストン中尉は37歳、エリック・マーズデン中尉は28歳。稲木は29歳だった。

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