最新記事

韓国事情

仮想通貨の効果的な対策を見出せない韓国政府

2018年2月5日(月)14時00分
佐々木和義

韓国では仮想通貨の取引実名制が導入された(写真は1月11日) Kim Hong-Ji-REUTERS

韓国で2018年1月30日から仮想通貨の入出金を取引所と同一銀行の本人確認を行なった口座に制限する取引実名制が導入された。

政府は投機が過熱する仮想通貨対策を検討してきた。取引所を閉鎖する案もあったが、投資家の反発が強く、仮想通貨取引の透明性を高める制度で新規の投機を抑制するにとどめた。青少年や非居住外国人を仮想通貨取引市場から排除し、マネーロンダリングを防止する効果が期待されている。

仮想通貨で大きな収益を得られるという噂がインターネットやSNSで広まって、投資が過熱し、韓国の市場価格が外国相場を上回るキムチプレミアム現象で、ビットコイン価格は韓国時間2017年11月29日には海外相場より17%高い1274万ウォンを記録した。世界相場は国際標準時間28日に1万ドルを超えたが、韓国の買い攻勢が海外相場の上昇に影響を与えたと専門家は分析する。

仮想通貨の取引高は株式市場のコスダックを超える規模となり、相場の乱高下に加えて、投資詐欺や取引高の増加に追いつかない取引所の脆弱なセキュリティを狙ったハッキングが多発したが、中央機関等による保証や投資家を保護する制度はなく、民間保険会社のサイバー保険も仮想通貨を「電子的データ」とみなし、ハッキング被害等は補償しないこともあり、対策が急務となっていた。

二転三転する政府の対応

韓国金融委員会は2017年12月28日、取引所の閉鎖に向けた特別法の制定を検討すると発表、法務部の朴相基(パク・サンギ)長官も2018年初頭の新年記者懇談会で仮想通過の取引を禁止する法案を準備中と述べ、価格は下落する。

閉鎖に反対する投資家が青瓦台(大統領府)の国民請願掲示板に金融委員会の崔鍾球(チェ・ジョング)委員長の解任を要求する文章を投稿し、1万人を超える投資家が同意する事態に発展した。

青瓦台の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席秘書官は、仮想通貨の取引所閉鎖は法務部が準備してきた方策の一つで、確定した事案ではないと説明する。

翻弄されたのは投資家と都市銀行

二転三転する政府の対応に翻弄されたのは投資家と都市銀行である。新韓銀行は2018年1月12日、ビッソム、コービット、イヤー・ラボ(EYA LABS)など仮想通貨取引所への入金を停止して、出金のみ可能な措置を取ることを決め、ハナ銀行も仮想通貨と距離を置くことにした。

取引所閉鎖と併せて取引実名制の導入も有力なオプションに上がっていたが、取引実名制を導入してすぐに政府が取引所を閉鎖すればシステム導入にかけるコストが無駄になる。金融情報分析院が、仮想通貨を利用した資金洗浄の痕跡が発見された場合は銀行も処罰すると発表し、仮想通貨の取引が少ないハナ銀行はリスクの割にメリットが小さいという判断が動いた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

FIFAがトランプ氏に「平和賞」、紛争解決の主張に

ワールド

EUとG7、ロ産原油の海上輸送禁止を検討 価格上限

ワールド

欧州「文明消滅の危機」、 EUは反民主的 トランプ

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易戦争緩和への取り組み協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中