最新記事

中東

ISIS潜伏に目をつぶる、トルコ・エルドアン政権の誤算

2018年2月24日(土)14時40分
コリン・クラーク(ランド研究所政治学者)、アフメト・ヤイラ(ジョージタウン大学非常勤准教授、元トルコ警察対テロ作戦部局長)

ISISのテロ細胞は既にスンニ派の大国トルコに根を下ろしている(イスタンブール) Murad Sezer-REUTERS

<大勢の「イスラム国」残党がトルコに潜伏。早いうちにテロの芽を摘まないと政権の命取りに>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)が樹立を宣言していた「カリフ制国家」の崩壊は、ISISの聖域となっていたイラクとシリアには朗報だが、戦闘員の逃走先の国々には脅威だ。

その筆頭格は両国と国境を接するトルコ。報道によれば「何千人もの」ISIS戦闘員がイラクとシリアを脱出、相当数が「トルコなどに潜伏中」だという。16年には、密入国業者の手引きで戦闘員らがシリアとトルコを行き来しているとドイツ出身の元戦闘員が暴露した。

17年1月1日にイスタンブールのナイトクラブで発生した銃乱射テロは、トルコにISISのテロ細胞が根付いていることを露呈した。イラクとシリアから逃げてきたアラブ系やヨーロッパ系の戦闘員は「細胞」の外国人部隊の一翼を担っている。

イスタンブールはかつてのスンニ派カリフ制国家の首都として、多くのイスラム教徒にとって歴史的意味を持つ。現実にISISがトルコでカリフ制国家を再興する望みはなくても、戦闘員の存在は国の安定を脅かす。

この1年、ISISはトルコでのテロに慎重だが、増加する戦闘員はいずれトルコの警察や軍との衝突を招く可能性が高い。大規模テロがトルコ国内で準備される可能性もある。17年8月には簡易爆弾の材料がトルコからオーストラリアに航空便で送られている。

トルコはISISのテロ計画の後方支援拠点と化すかもしれない。トルコがアフガニスタンやリビアなど多くのテロリストの聖域と違い、破綻国家でないことは重要だ。比較的ビザが取りやすく、航空交通網の重要な位置にあり、金融取引の追跡体制に不備があるため、過激派が通信・輸送・金融のネットワークを利用しやすい。治安当局の腐敗と共謀が賄賂と威圧によるアクセスをさらに容易にする。

クルド封じに利用するな

一部の政治家や治安部隊高官については、ISISに対抗する気があるかどうかも疑問だ。2月上旬、イスタンブールや首都アンカラなどで3件の爆破テロに関与したISISメンバー10人以上が突然釈放された。トルコは元ISIS戦闘員にシリアのクルド人を攻撃させているという話もあり、裏取引があったのではと臆測を呼んでいる。

この10年で、トルコのイラクやシリアとの国境沿いの都市や集落では、ISISやアルカイダなど原理主義的なサラフィー主義者への支持が高まっている。トルコの国内安定は過激化の動向、国民や増加する難民のジハード(聖戦)への支持が今後どう変化するか、そしてクルド人の反乱などに影響されるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米マイクロソフト、英国への大規模投資発表 AIなど

ワールド

オラクルやシルバーレイク含む企業連合、TikTok

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4年ぶり安値 FOM

ワールド

イスラエル、ガザ市に地上侵攻 国防相「ガザは燃えて
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    出来栄えの軍配は? 確執噂のベッカム父子、SNSでの…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中