最新記事

トルコ情勢

トランプ勝利を歓迎するトルコのエルドアン大統領

2016年11月28日(月)17時30分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

Damir Sagolj-REUTERS

<現在、トルコ国内ではトランプの勝利を肯定的に評価する見方が広がっている。シリア内戦、対IS、クーデタ未遂の首謀者とされるギュレン師の引き渡しは、どうなるのか>

トルコにとってトランプの勝利が望ましかった理由

 2016年のアメリカ大統領選挙は当初の予想に反し、ドナルド・トランプが大統領に選ばれた。重要な同盟国であるとともに、中東の地域秩序の今後に大きな影響を及ぼすアメリカの大統領選挙はトルコの政策決定者たちも興味深く見守っていた。

 現在、トルコ国内ではトランプの勝利を肯定的に評価する見方が広がっている。その理由は大きく2つである。

 第一に、トランプは相対的にヒラリー・クリントンよりもシリア内戦でトルコ寄りの行動をとると予想されるためである。トランプの対シリア政策の中身はいまだに不明瞭な部分が多いのに対し、クリントンは10月9日の第二回討論会で、シリアにおいてクルド勢力がアメリカのベスト・パートナーであり、クルド勢力に武器を提供する予定だと発言していた。このクリントンの発言は、シリアの民主統一党(PYD)とその軍事組織である人民防衛隊(YPG)をトルコ国内の非合法武装組織、クルディスタン労働者党(PKK)と同一の組織と位置付けるトルコにとっては受け入れがたいものであった。

 第二に、7月15日のクーデタ未遂の首謀者とされ、トルコ政府が名指し批判しているフェトフッラー・ギュレン師の引き渡しに関して、クリントンよりもトランプの方が前向きに応じると考えられるためである。ギュレン師の引き渡しに対し、オバマ大統領は難色を示しており、また、ギュレン運動の関係企業がクリントン陣営に200万ドル献金していたと言われている。

 このような理由から、トルコ政府およびエルドアン大統領はトランプの勝利を歓迎した。エルドアンはトランプに祝電を送るとともに、「トランプ政権とトルコ政府は、シリアとイラクに関して共通の将来を見通すことができる」と期待を口にしている。また、EU諸国の首脳がトランプ氏の勝利に難色を示していることを批判し、「民主主義は選挙に基づくものではないのか」と発言している。トランプのイスラーム教徒を危険視する発言を危惧する人々に対しては、「間違いは修正されるだろう」と一蹴している。

トルコ政府を支持するマイケル・フリン

 トランプ政権で国家安全保障補佐官に就任することが決定したマイケル・フリンはイスラーム教徒を安全保障上の脅威とたびたび発言しているが、一方でトルコ政府の支持を打ち出している。フリンは、選挙当日の11月8日にThe Hillに投稿した「同盟国トルコは危機に瀕しており、我々の支援が必要だ」と題した論考において、トルコはアメリカにとって対「イスラーム国(IS)」、そして中東地域の安定に関して最も強力な同盟国であると持ち上げ、オバマ大統領やビル・クリントン元大統領が、トルコ政府がテロ組織と位置付けるギュレン運動とその中心であるギュレン師と良好な関係を保っているとし、批判している。そして、フリンはギュレン師のアメリカからの放逐を主張したのである。フリンの論考には多くの矛盾があるものの、トルコを同盟国として重視する姿勢、そしてギュレン師の引き渡しに応じる姿勢は明確に見てとれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イランと取引に応じる用意 「テロ放棄が

ワールド

トランプ氏、17日にゼレンスキー氏と会談 ワーキン

ビジネス

JPモルガン、最大100億ドル投資へ 米安保に不可

ワールド

イスラエル首相、ガザ巡るエジプト会合に出席せず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中