最新記事

日本社会

障害者殺傷事件、匿名性が日本に突きつけた現実

2016年9月23日(金)14時00分

秘密の恥

 障害のある5歳の息子、真輝(まさき)ちゃんの医療費をめぐり「金くい虫」などとインターネット上で誹謗(ひぼう)中傷を受けているという与党・自民党の野田聖子議員(56)は、事件の犠牲者の家族が匿名を望んだことは驚きではないと話す。

「障害者の家族には2通りあって、1つは積極的に障害児であることをアピールして、世の中を変えていこうというポジティブな人もいるが、『声なき多数』は社会に対して非常にネガティブで、家族に障害児がいることを知られたくない、騒がないでほしいと思っている」と野田議員はロイターに語った。

 事件の犠牲者の家族は、施設に身内を入れたことで、捨てたと非難されるのを危惧した可能性もあると、専門家や活動家は指摘する。

 今回の犠牲者が匿名で報道されたのと全く対照的だったのが、同じく7月に起き、日本人7人が死亡したバングラデシュ人質事件の犠牲者に関する報道だ。

「障害がない人であれば過剰なくらい被害者の情報が出る。明らかに障害がある人と障害がない人の場合が別で、違和感がある」と語るのは、非政府組織(NGO)日本障害フォーラムの原田潔氏。

「なぜ障害がある人だけが隠されるのか。犠牲者がどういう暮らし、どういう家族関係、どういう趣味を持っていたのか、そういう人としての存在があまり出てこない」

 相模原の事件の植松聖(さとし)容疑者は、重度障害者の安楽死を支持し、大量殺人計画の概要を政治家に送った後、自身と周囲に危害を加える危険があると判断され、短い間、措置入院させられた。

 障害者介護の現場で働く人のなかには、普通の日本人が植松容疑者の過激な考えに共感を抱いていると心配する人もいるが、専門家はそのような考えは主流ではないと語る。

 日本では、安楽死も自殺ほう助も合法ではない。

 患者の同意を得て延命治療を行わない医師を守る法律を成立させようとする動きは、それが安楽死を合法化する一歩となるのを恐れる障害者の権利擁護団体からの猛反対で頓挫している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中