最新記事

領土問題

南シナ海「軍事化」中国の真意は

2016年3月23日(水)19時37分
シャノン・ティエジー

 南沙諸島と西沙諸島にはもう1つ大きな違いがある。西沙諸島に関しては、領有権争いが存在しないという認識を中国側が持っている点だ。南沙諸島とは異なり、西沙諸島については(かつて領有権を主張していた南ベトナム政府軍が、74年の軍事衝突で中国軍に蹴散らされた結果)現に島々の領有権を主張し、実効支配しているのは中国だけだ。

 現在のベトナム政府も西沙諸島の領有権を主張しているが、中国はそれを認めず、解決すべき領有権問題は存在しないとする(尖閣諸島に関する日本の立場と似ている)。北ベトナム政府が56年に領有権を放棄したとも、中国は主張している。

 それゆえ、ウッディー島における中国の軍事展開について問われた中国外務省の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官は、「西沙諸島は中国固有の領土であり、領有権問題はまったく存在しない」と答えた。

 さらに、領有権問題が存在しない以上、中国とASEANが署名した02年の「南シナ海行動宣言」の対象に西沙諸島は含まれないと付け加えている。同宣言は、南シナ海における「平和と安定を脅かすような挑発行為の自制」などについて合意したものだ。

騒ぎ過ぎるのは逆効果?

 この宣言があるからといって、中国政府が南沙諸島に軍事施設を建設しないとは限らない。何しろ、中国は南沙諸島も自国の領土と考えているのだから。

 中国国防部の呉謙(ウー・チエン)報道官は、将来的に南沙諸島にミサイルなどを配備する予定があるか問われると、「中国は過去も現在も、一時的にでも恒久的にでも、自国の領土にどんな兵器や装備を配備するかを決定し、実行する正当な権利を有する」と答えた。

【参考記事】一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国

 ウッディー島での最近の動きがここまで懸念されるのは、南沙諸島でも似た展開になる恐れがあるからだ。グレーザーに言わせると、中国は南シナ海での「接近阻止能力を獲得し、領海と領空の支配を強化しようとしている」ようだ。

 しかし同時に、これまで示したのと同じ理由で、米当局者や安全保障のアナリストたちはウッディー島での動きにばかり目を奪われるべきではない。実際、ウッディー島のミサイルや戦闘機配備に焦点を当て過ぎるのは逆効果をもたらしかねない。

【参考記事】南シナ海、米中心理戦を読み解く――焦っているのはどちらか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ワールド

米民主党議員、環境保護局に排出ガス規制撤廃の中止要

ビジネス

アングル:FRB「完全なギアチェンジ」と市場は見な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中