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欧州で議論呼んだスイスのスキーシーズン開幕 予約はやはり少なめ

2020年12月02日(水)19時00分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

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新型コロナウイルス感染拡大前、スキー客などでにぎわうスイスのリゾート地(筆者撮影)

感染の心配は皆無ではない

スキー場側は今冬は利益重視ではなく、とにかく4月までのシーズンを無事に終えられることを願っているようだ。スノーボードのメッカ、またファミリーゲストにも人気のスキーリゾート、ラークスの責任者は「利益は中心的に考慮すべきことではありません。お客様が安全で快適にスキーができるようにする、いまはそれで手一杯です」と話す(スイスの公共放送 SRF)。感染が抑えられない状況になれば、全国のスキー場は昨シーズンのように即刻閉鎖になる。

ただしスキー場側が細心の注意を払ったとしても、感染者ゼロとは言い切れない。ベルン大学の免疫・疫学研究者エマ・ホドクロフト氏は次のように言う。

「屋外で滑ること自体は非常に安全ですが、スキーリフトとレストランに配慮しなければいけません。ほぼすべてのヨーロッパの国にあてはまりますが、すべてのスキー場をオープンするには、症例数がいまよりはるかに少なくなければなりません。

スイスのスキー場での予防策は、いくつか大切な点について十分に議論されていません。換気が不十分な屋内の空気中にはウイルスが蓄積する可能性があります。とくに、そこに多くの人がいる場合はそうです。この状況では、ウイルスが拡散する可能性があり、手を洗ったり距離を保ったりしても役に立ちません。ランチタイムのレストランは込み合いますし、通常、換気はあまりよくありません。ですので、現実的にはレストランはあまり安全ではないでしょう。

現在、多くの国からスイスに入国すると、到着後に自己隔離は求められません(注)。そのため、スイスはスキー休暇の旅行先としてとても魅力的です。最近、私たちの調査で、夏に出現した新型コロナウイルスの新しい亜種がスペインからスイスを含めてヨーロッパ全体に広がったことがわかりました。スキー休暇中にこのようなことが起こるのは、絶対に避けるべきです(注 シェンゲン協定加盟国国籍者はスイスへの入国制限なし。加盟国でもスイス連邦政府が危険地域に指定していれば、スイスにて要自己隔離。第三国からは一部を除き、スイスへの入国資格がない限り入国は制限されている)。

スキーリゾートを営業する条件を調整する必要があります。 何もしなければ、感染の危険領域になり得ます」(スイスの公共放送SRF

スイスのスキー場は、これからどういった動きを見せるのか。来春までやり抜くにせよ営業が打ち切りになるにせよ、厳しいシーズンになることが予想される。

貴方は休暇中に(スイスで)スキーやスノーボードに行きますか?

(1万1638人回答)

 
s-iwasawa01.jpg[執筆者] 岩澤里美 スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com
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