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エンジェル・オルセンが語る、音楽業界とコロナ

Angel Olsen Goes It Alone

2020年09月09日(水)18時10分
デービッド・チウ

よりアコースティックな『ホール・ニュー・メス』では、『オール・ミラーズ』のバージョンよりも曲の内省的な側面を感じることができる。オルセンが切々と歌い上げるバラード「チャンス(フォーエバー・ラブ)」の「永遠の愛だなんて言えない/永遠は当面でしかないから」という歌詞も、聴き手の胸にぐっと迫ってくる。

「昔の曲には、『どうしてこんな曲を書いたんだっけ』と背景を思い出せない曲もある」と、オルセンは語る。「でも今回は、曲を書いたときの状況がはっきりしている。個人的にとてもつらい出来事だった。それを何だか分からない漠然とした詞にしてしまうつもりはなかった」

『ホール・ニュー・メス』には、『オール・ミラーズ』に収録されていない曲が2曲ある。1つは、ブルースのテイストが感じられる「ホール・ニュー・メス」だ。「『これから何年、曲を作り続けるんだろう。他の仕事をすることもあるのかな』と思いながら書いた」と、オルセンは言う。

「ツアーから帰ると、『ああ、家って最高』と思うときがある。音楽の仕事はとてもハードだけれど、世間一般では楽しくて、ラクな仕事だと思われている。でも、背中がすごく痛くなったりするんだから」と、オルセンは笑った。

音楽と距離を置ける場所

「残念なのは、この業界でやっていくためには、魅力的だとか興味深い存在だと思われることがとても重要なこと。女性らしさを前面に押し出したりね。『悲しくてシリアスなことばかり歌っているのに、どうしてこんなことをしなくちゃいけないの』と思った」

「それなりに試したけれど、『もういい。興味深い人間に見える努力なんてしたくない』と思った。そういう意味で、『ホール・ニュー・メス』という曲は世の中の仕組みについて書いた曲で、私なりのブルースだ」

「今もこの曲を聴くと、当時のフラストレーションを思い出す」と、オルセンは言う。「自分の人生に起こったことだから。でも曲にしたことで気持ちに区切りがついた」

オルセンはミズーリ州セントルイスに生まれ、デビュー後しばらくはシカゴに住んでいた。アッシュビルに転居したのは数年前だ。

「自宅では、ツアー中とは全く違う生活を送っている」と、彼女は言う。「いま住んでいる場所は『家に帰ったら仕事なんてしない』という土地柄で、私にとってはとてもいい環境。音楽と少し距離を置けることで人生が一変した。今は自然に囲まれて、以前よりもずっとリラックスできる」

次にどんなサウンドに取り組むかは、まだ決めていないと、オルセンは言う。「いろいろ試して、いつも新鮮な気持ちで音楽に取り組むのが楽しい。エレクトロポップやソウルなど、さまざまなジャンルに興味がある。その一方で、無駄をそぎ落としたソロでのパフォーマンスと録音も大好き。その両方を続けたい」

観客を入れたコンサートを開けるのはまだ先になりそうだから、今後もライブはオンラインでやることになりそうだ。『ホール・ニュー・メス』の発売日には、記念ライブも予定している。

「どんなに世界が暗くて混乱していても、人は音楽を必要としているし、希望を必要としている」と、オルセンは言う。「日常から少し離れて、音楽を聴いたり、踊ったりする必要がある。その手伝いができるなら大歓迎」

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