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子どもをもたない生き方 ──「チャイルド・フリー」も幸せ

2020年08月14日(金)11時00分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

ますます声を上げるチャイルド・フリー主義者

米誌タイムはチャイルド・フリーを2013年に特集した。日本でも主要メディアがときどき取り上げたり、当事者の女性たちが書籍を出しており、また、産まないことを選択した女性たちの声をネットで読むことができる。

英紙ガーディアンでは、7月から「世界・アメリカ」のカテゴリーでチャイルド・フリーについて連載を開始した。連載のきっかけは、ガーディアンUSの女性編集者2人がチャイルド・フリーを選んでいること。ここには、チャイルド・フリーの人たちが写真つきで手記を載せたり、なぜ子どもをもたないかの理由をビデオで語ったりしている。

また、チャイルド・フリーのライフスタイルについて読者にアンケートも取り、2千以上のメールが届いた(子どもをもつ人からのメールもある)。子どもをもたない理由は様々だ(以下、その一部)。

●母親になりたいと思ったことがない...働きながら子育てはできないと感じていた/母親になることが当然だという宗教のなかで育ったが、人生にはそれ以上のものがあると思う/LGBT(レズビアン)だから
●キャリアと育児の間で罪悪感にかられる...仕事(医師)をしていたら子どもに悪いと思うし、子どもといたら仕事のことを考えてしまったはず。また子どもを長時間預けて育てることに価値を見出せなかった
●子どもができたら心配なことがある...子どもをもったらまた精神病になるかもしれないし、子どもも精神病になってしまうかもしれない/子どものとき人種差別を受けたことがあり、自分の子どもには同じ思いをさせたくない
●本当に子どもがほしかったわけではなかった......不妊治療の末、本当に望んでいたことがわかった/不妊治療が心理的に苦痛だった

1冊の本から見るチャイルド・フリーの実態

チャイルド・フリーを研究するエイミー・ブラックストーン教授は、初の著書『チャイルドフリー・バイ・チョイス』(2019年6月出版)のために、チャイルドフリーの男女70人にインタビューしたり、ほかの研究を調べた。そこでわかったことは、以下の点だった。

●チャイルドフリーの女性は烙印を押されがち...出産を経験しなかったなんて可哀そう、それに孤独でしょうなどと言われる
●ミレニアル世代はチャイルドフリーでいたい...経済的に子をもつのが難しい、子をもつことは環境によくない、おおらかでいたい、自由でいたい、旅行したい
●チャイルドフリーの人たちはパートナーとの関係に集中したい
●チャイルドフリーは自分勝手な選択ではない
●チャイルドフリーの人たちは子どもが好きな人が多い
●チャイルドフリーの人たちは後悔していない
●チャイルドフリーの人たちは満足していて幸せ
●誰が老後の面倒を見てくれるの? と言われるが、たとえ子どもがいても、自分の老後について考えなくてよいわけではない
●子どもがいない家庭は家族がいないと思われがちだが、パートナーと自分だけでも立派な家族だ

筆者の周りにはチャイルド・フリーの男女が少なくない。本書の指摘どおり、確かに子ども好きの人が多いし、みな人生を謳歌している様子だ。一方で、子どもがいて非常につらい状況にある女性たちも何人か知っている。自分のことを言えば、産んでよかった(産まない人生もいいかもしれないと思っていた時期はあったが)と思いつつ、子どもがいることで精神的、肉体的、そのほか諸々大変なことを経験してきた。

いまも多くの国々では、「子どもをもたないと幸せではないだろう」という認識が強い。だが、子どもがいてもいなくても、幸せだと感じられる時間を多くもてるよう日々歩んでいけばいいのだ。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com


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