最新記事

音楽

不安と恐怖以外にみんなで共有できるもの──フィオナ・アップルが自宅で歌う隔離と解放

The Unofficial Album of the Pandemic

2020年05月15日(金)18時00分
サム・アダムズ

いくつもの戦いを経験してきたアップルがまっとうな怒りを歌う GARY MILLER/GETTY IMAGES

<『フェッチ・ザ・ボルトカッターズ』は8年ぶりにリリースされたコロナ時代のアルバムだ>

フィオナ・アップルは、家に閉じ籠もって暮らす私たちを解放しようとしているのかもしれない。

8年ぶりのアルバム『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ』に収められた曲の大半は、自宅でレコーディングされた。そこらにある家庭用品をたたいて音を出しているように聞こえたり、犬や猫の鳴き声が入り込んだり、隣家の音らしきものが聞こえてきたり。

このアルバムのテーマは、隔離とそこからの脱出だ。独りぼっちでいるときも、世界は思いのほか近い場所にあるのだと教えてくれる。

『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ』というタイトルは、イギリスの刑事ドラマのセリフから取っている。ほかにもテレビ番組から着想を得た収録曲がある。アップルは過去8年間にわたり、この1カ月間の私たちと同様、家でテレビを見て過ごしていたようだ。

アップルはこのアルバムで、子供時代のいじめや仲間外れの経験などを歌っている。ただし、単に過去への恨みを述べているだけではない。アップルは、全てをひととおり経験しない限り、過酷な日々の出口に到達できないと学んだ。そして、数十年の年月を経て、その出口に向けた彼女の旅は始まったばかりに思える。

家に招かれたような感覚

1年前からアルバムのリリースが示唆されていたのだから、最近盛り上がりを見せている「隔離アート」の1つと位置付けるのは妥当でない。それでも、多くのアーティストが作品の発表を延期するなかで、今『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ』をリリースしたことには、意図があるようにも思える。

現在のような非常時には、いくつもの戦いを経験してきたアップルが過去の戦いを振り返り、まっとうな怒りを吐き出す作品を聴くと、不思議な安心感がある。

不特定多数の人間が同じ空間でアートを楽しむことは、ほぼ不可能になった。このアルバムは、そうした時期に、不安と恐怖以外にみんなで共有できるものが欲しいという欲求を満たす作品でもある。

歌詞と同じくらい印象深いのがサウンドだ。閉ざされた空間で収録されたことが伝わてくる半面、楽器の周りに存在する空間もはっきり感じ取ることができる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の人口、4年連続で減少 25年は14億0500

ビジネス

午前の日経平均は続落、一時800円超安 選挙情勢の

ワールド

印リライアンス10-12月利益が予想届かず、コスト

ワールド

原油先物横ばい、イラン抗議デモ沈静化で供給懸念後退
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    シャーロット王女が放つ「ただならぬオーラ」にルイ…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 5

    キャサリン妃とウィリアム皇太子の「ご友人」...ロー…

  • 1

    シャーロット王女が放つ「ただならぬオーラ」にルイ…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 4

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 5

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    シャーロット王女が放つ「ただならぬオーラ」にルイ…

  • 3

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 4

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 5

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:総力特集 ベネズエラ攻撃

特集:総力特集 ベネズエラ攻撃

2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?