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被害者であることを武器にする「#MeTоо」は不快 「若い世代よ、しっかりして」

Taking on Political Correctness 101

2019年12月02日(月)16時05分
ニーナ・バーリー

本書には、ジャーナリストの故クリストファー・ヒッチェンズが自らの記事の正しさを主張するビデオを、ダウムが学生に見せたときのことも書かれている。女性は面白みに欠ける、その証拠に成功した女性コメディアンはみんなユダヤ人かレズビアンだと論じた悪名高い記事だ。

ビデオに怒る学生たちの姿に、ダウムは80年代に大学の映画の授業でピエル・パオロ・パゾリーニの『ソドムの市』を見せられたときのことを思い出す。拷問シーンを生々しく描写した作品だ。

ダウムはクラスメイトと共に、その作品に耐えた。「一緒に吐き気を我慢しながら、暗い教室でノートを取ろうとした。つらさを共に耐えていたら何だか楽しくなってきて、笑いまでこぼれた。そこから連帯感が生まれ、こんなばかばかしい経験をトラウマにしてたまるものかと感じた」

被害者であることを武器にする「#MeTоо」の風潮に、ダウムは不快感を覚えるとはっきり書いている。X世代が社会に出る頃、フェミニズムとはタフになることを意味した。しかし常に男性優位主義の壁にぶち当たり、笑ってやり過ごすしかなかった。

「年を重ねるにつれて、タフであろうとする私たちの本能は筋肉のようになった。愛する人に去られたときにやるべきことは、悲しみをこらえ、独りになるまで泣かないことだった。地下鉄で強盗に遭って震え上がっても、働いていればこんな経験をすることもあるだろうと考えていた」

ダウムの文章は大胆だ。現代への視線は厳しく、押し付けがましいときもある。だが何より重要なのは、微妙なニュアンスが大切だという彼女のような主張が、トランプ時代のアメリカでは右派にも左派にも見られないことだろう。


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