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北欧から新しい「ヒュッゲ」のすすめ──ホームパーティー気分でアートに触れる

2018年09月19日(水)15時25分
冨田千恵子(デンマーク在住ライター)

主催者のオースランド(左)とラスムスセン(右)。ベンチの上の陶器も展示作品 Photo:Tia Borgsmidt

<ギャラリーではなく自分の家でアートの展覧会を開催するアイデアが、北欧デンマークで話題になっている>

デンマークは「ヒュッゲ」の国。ヒュッゲとは、「人と人とのふれあいから生まれる、居心地の良い温かな雰囲気」という意味のデンマーク語で、他国の言葉になかなか訳しにくい言葉だ。

地元の人々は主に、家族や友人知人と集まって、お茶や食事やトランプなどをゆったりと楽しむ時間を共有することをヒュッゲと定義している。特別な用事がなくても自宅に人を呼ぶことは全く苦にならないのがデンマークのお国柄といえる。

そんな国で最近話題になっているのが、女性アーティスト2人が始めた、自宅を開放して数多くのアート作品を展示販売するポップアップアートサロン、「クンストサロネン」だ。

9月9日の全国紙ベルリンズケ(Berlingske)によると、このサロンがスタートしたのは2017年12月、画家のアンヌ・オースランドと美大卒のインテリアスタイリスト、メッテヘレーネ・ラスムスセンが、仲間に声をかけ、コペンハーゲンのオースランドの自宅に34人のアーティストが作品を1~2点ずつ持ち寄って1週間展示したことからだった。

その後今年3月にはラスムスセンの自宅で2回目が開催され、全国紙ポリティケン(Politiken)に取り上げられ、評判を呼んだ。

そしてこの9月、コペンハーゲンからデンマーク第2の都市、オーフスに場所を移し、今度はインテリアスタイリストのリーネ・ケッセルハン宅で第3回目が開催された。

毎回100点近くのアート作品が展示されたが、参加アーティストやその家族だけでなく、著名美術館のキュレーターやアート好きの女性政治家たち、それに主催者の隣人や友人など多くの人が集まり大盛況となった。オープニングには詩の朗読やライブ演奏も企画され、パーティーのような賑わいだった。

筆者は1回目と2回目に行ってみたが、いずれも普通の個人宅なのでリビングからキッチンまで、隙間なく大小のアート作品が並んでいたのが面白かった。本棚やソファ、ベッドなどが置かれた生活空間だから、アートギャラリーとはまるで違い、そこには確かに家庭的でヒュッゲな雰囲気があった。

「靴は脱ぐのよね?」から始まるアート談義

北欧は冬が暗く長い。冬の間自宅で最大限寛ぐことを重要視することから、人々のインテリアセンスが磨かれてきたことは広く知られている。デンマーク人にとってはアートもインテリアのひとつとして欠かせないもので、有名無名を問わず、気に入ったアート作品を飾ることは、子供の頃から身に付いている習慣だ。

アートギャラリー、アートフェア、オークションなどにプロだけでなく一般の人々の参加することも比較的多いが、それでもやはり、ギャラリーは気軽には行きにくい場所と思われている。もちろんギャラリーで絵を購入するとコミッションが上乗せされ、高額になるし、規模が小さいギャラリーが多いため数を巡らないとなかなか好きな作品に出会うチャンスが少ない、というのがアート好きたちの悩みだ。

そこでこの主催者は、期間限定で自宅を開放し、なるべく多くの作品を展示して多くの人に直接販売する「自宅サロン」の開催を考え付いたのだという。

昨今はデンマークでも、個人宅へ上がる際は日本のように玄関で靴を脱ぐことが多いのだが、「ここではアートに関する会話のきっかけが、来訪者の『ご自宅だから、靴は脱ぐのよね?』という言葉からです。ギャラリーやミュージアムでは無言で鑑賞しがちですが、ここでは誰もがおしゃべりです」と、オースランドは話す。

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