最新記事

アメリカ政治

一般教書演説に隠されたオバマの本音

オバマ米大統領が打ち出した外交の施政方針の裏に潜む政治的駆け引きや真の狙いを読み解く

2010年1月29日(金)18時07分
ジョシュ・ロギン

外交は後回し 一般教書演説の3分の2は経済政策に関する内容で、オバマの意気込みが感じられたが(ワシントン、27日) Kevin Lamarque-Reuters

 バラク・オバマ米大統領は1月27日の一般教書演説の中で、最後の数分間を使って外交政策に触れた。以下はその要旨(と隠された本音)だ。

■輸出


「私たちは輸出を増やす必要がある。今後5年間で輸出を倍増させ、国内で200万の雇用を支援する新たな目標を設定する。そのために国家輸出イニシアティブを立ち上げ、農家や中小企業を後押しし、安全保障と併せた輸出規制改革を目指す」


隠された本音:共和党は輸出規制の緩和をうるさく非難するだろうが、経済面で点数を稼ぐために安全保障予算の部分でその痛みに耐えるつもりだ。

■交易


「競争相手国と同様、私たちも積極的に新市場を開拓する必要がある。他国が貿易協定を結ぶのを横目で見ているだけでは、国内での雇用創出の機会を失ってしまう。しかし(新市場を開拓して)恩恵を受けるには、貿易相手国が規制の中で行動するよう協定を強化する必要がある。ゆえにドーハラウンドで世界の市場開放を目指し、アジア地域や韓国、パナマ、コロンビアといった主要相手国と通商関係を強化している」


本音:アメリカは自由貿易協定に大賛成だと言い続けるつもりだが、11月に中間選挙を控えた議会にはそんなことを考える余裕はない。とりあえずここでは、忘れたと思われないようにいくつかの国の名前を挙げておこう。世界貿易機構(WTO)に何か文句をつければ、貿易に関して積極的なふりはできる。中国がらみの問題なんかどうだろう。

■アフガニスタンについて


「米軍を増派し、アフガニスタンの治安維持部隊の訓練も行っている。2011年7月にはアフガニスタン部隊に治安権限を委譲し、米軍の撤退を始めるのが目的だ。私たちは正しい統治に見返りを与え、汚職を減らし、男女を問わずすべてのアフガニスタン人の権利を支援する。アフガニスタンへの関わりを強めている同盟国や関係各国と協力し、ロンドンで開かれる支援国会議で共通の目標を再確認する。決して簡単な道のりではないだろうが、成功に自信を持っている。昨年には、08年をはるかに上回る数のアルカイダの関係者や幹部を含むメンバーを拘束、殺害した」


本音:部隊を増員して金を使えば、さらに多くの悪党どもを殺せる。私たちに同調するよう、アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領を説得できるかどうかはわからない。どっちにしても、来年には撤退を始めるし、あまりにもひどい情勢にならなければ退却するようには映らないだろう。

■イラク


「アルカイダとの戦いを進める一方で、私たちは責任を持ってイラクを国民の手にゆだねようとしている。大統領選で私はイラクでの戦争に終止符を打つと約束したし、今は大統領として実現へ向けて取り組んでいる。今年8月末までには、米軍の戦闘部隊はすべてイラクから引き揚げる。今後も私たちは選挙を控えたイラク政府を支援し、周辺地域の平和と繁栄を推進するためにイラク国民のパートナーであり続ける。ただし誤解しないでほしい。戦争は終わりに近づきつつあり、米軍部隊は残らず帰国する」


本音:放っておいても解決しそうな問題は自分の手柄にしておこう。ふぅ。

■核問題


「核抑止力を保ちながら核弾頭の保有数を減らすため、アメリカとロシアが行ってきた過去20年近くで最も広範な削減条約の交渉が終わろうとしている。4月の核安全保障会議では、44カ国が明確な目標を持って一堂に会する。4年かけて世界中の不安定な核物質を安全に確保し、決してテロリストの手に渡らないようにする」


本音:戦略兵器削減条約が合意の後に続くから心配ない。ただし他の軍縮問題については期待しないでほしい。包括的核実験禁止条約? 兵器用核分裂性物質の条約? 核不拡散条約の再検討会? 今年はないね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

モスクワ南部で自動車爆弾爆発、ロシア軍幹部が死亡=

ビジネス

韓国税務当局、顧客情報流出のクーパンに特別調査=聯

ビジネス

フジ・メディア、村上氏側に株買い増し目的など情報提

ワールド

中国、米国による船舶拿捕は「重大な国際法違反」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中