最新記事

世界経済

ロシア経済を急速に飲み込む「人民元」 中国から金融の安全保障

2022年11月30日(水)20時07分

ロシア大企業が元で起債

国際的な資金フローにも、ロシア国内と同様の傾向が見られる。

国際決済制度SWIFTのデータによると、ロシアは4月まで、中国国外での人民元取扱高(流入・流出の金額)で上位15カ国にすら入っていなかったが、今では4位に急浮上した。

国際的な観点で見ると、9月時点で世界の資金フローの42%をドル、35%をユーロが占めており、依然としてこの2通貨の存在が圧倒的だ。人民元は約2.5%で、2年前の2%未満から拡大した。

ただロイターの集計によると、ロシアではアルミのルーサル、石油のロスネフチなど大企業7社がこれまでに人民元建てで計420億元の債券を発行している。銀行最大手ズベルバンクや石油のガスプロムネフチなども人民元建て起債を検討中だ。

中銀は利用促進

ロシアのプーチン大統領は長年ドル依存を減らそうと模索してきたが、今年は地政学という強力なエンジンが加わった。プーチン氏と習近平国家主席は2月に「無制限」の中ロ協力に合意している。この数週間後、ロシアはウクライナに侵攻した。

ロシア中央銀行のアンドレイ・メルニコフ国際協力局・副局長によると、昨年はロシアの対中貿易決済における人民元のシェアは約19%で、ドルは49%だった。今年の数字はまだ公開されていないが、メルニコフ氏によると人民元の割合が拡大している。

ロシア中銀は本記事へのコメントを控えた。

中銀のナビウリナ総裁は今月議会で、人民元の大量流入は「わが国経済の通貨構成の変容」を印象付けたと述べた。

ロシアでは人民元預金が急拡大する一方で人民元建ての貸し出しは始まったばかりで、規制当局はこの不均衡がもたらすリスクについても認識している。中銀は市中銀行に対し、バランスシートにおける人民元の資産・負債バランスの不均衡を是正するため、輸入での人民元支払いや人民元建て証券への投資、中国以外の国々との貿易における人民元の利用を増やすよう促した。

ただ当局は現時点で人民元の利用を制限することは計画していない。むしろ貸倒引当金規制を人民元については緩め、ドルとユーロについては厳格化することで、銀行の人民元利用を促進するかもしれないと、中銀のエリザベータ・ダニロワ金融安定局長は今月の会合で述べた。

(Elena Fabrichnaya記者、 Samuel Shen記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ地区最大都市ガザ市に地上侵攻 国防

ワールド

米、自動車部品に対する新たな関税検討へ 国家安保上

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ビジネス

米8月製造業生産0.2%上昇、予想上回る 自動車・
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 8
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中